ドローン開発競争が激化する中東で、アラビア半島の盟主・サウジアラビアも、ついに国産ドローン開発を本格化させ、新たなドローン大国として躍り出るのであろうか?先月、サウジの首都リヤドで開催された防衛産業の展示会で、サウジの軍需企業イントラ・ディフェンス・テクノロジーズ社が、自社製軍事ドローンをお披露目した。同社は既に、トルコ企業により開発された機体「カライェル」を改良した機体をリリースしていたが、今回、航続距離や兵器の搭載量を大幅に改善した機体「サムーン」を公開した。また、イントラ社CEOは、汎アラブ紙「中東」のインタビューで、サムーンを「史上初、サウジで設計・製造された戦略的無人兵器」とした。また、国内に「無人機工場」を設立し、今年中盤には、稼働を開始するとも明らかにした。

 

 軍事用ドローンは、画像処理やセンサー技術など先端技術が詰め込まれており、それらは欧米日の先進国の企業に一日の長がある。一方、そうした技術を自前で持たなくても、それらを入手し、組み合わせることができれば、有力なドローンを開発できる側面もある。先端技術に乏しいトルコが、短期間でドローン大国に昇りつめることができた理由が、正にそれだ。ウクライナでも活躍中と伝えられるバイラクタルTB2は、アメリカ・イギリス・カナダ・ドイツなどの企業が提供する部品・技術によって成り立っている。10日、サウジの国営・サウジ軍事産業社と米・ボーイング社は、民生・軍事両面の航空機開発において提携することで合意したと報じられた。サウジも、トルコの教訓に倣うのだろうか。

 

 ドローン産業育成は、国の実権を握る皇太子ムハンマド・ビン・サルマン(通称:MBS)の肝入り政策の一つだ。前述のイントラ社が新型機を発表した展示会を盛り上げるためか、自ら会場に足を運んだ。MBSは、「脱石油政策」を掲げ、目新しいものには手当たり次第に飛びついて、新産業創出にやっきになっていると伝えられる。

 

 一方で、ドローン開発の分野では、ライバルのイランに一歩も二歩も先にいかれ、サウジは、イエメン発のイラン製ドローンによる攻撃を受け続け、その実戦試験場の立場に甘んじてきた。

 

 イランは、イスラム革命直後からドローン開発に着手し、イラン・イラク戦争時には既に、自国製無人機を戦場に投入していたとされる。イランはキャリアの長さもさることながら、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、またイラクのシーア系武装勢力など、ドローンを実戦使用してくれる傘下勢力に事欠かない。

 

 こうして、実戦データ・ノウハウが蓄積されていき、新型機の開発も進む好循環となる。トルコのドローンも、シリア、リビア、アゼルバイジャン…と実戦で実績を積み上げ、その戦績により各国・勢力への売り込みも進んでいる。

 

 今度のウクライナ危機などでさらに注目を集め、追いつき難い先行者となっている。サウジがドローンを実戦で使用するとすれば、イエメンにおいて、これまで煮え湯を飲まされてきた仇敵フーシ派に対してだろうか。しかし、イエメン戦争は、フーシ派による停戦の呼びかけで休戦状態となっており、恒久的な終戦に向けての展望も語られている。

 

 一方、北アフリカに目を向けると、ドローンが注目された紛争地としてリビアがある。リビアは東西に分裂しており、サウジは、東部の武装勢力を率いるハフタル将軍と関係を築いている。そのハフタル派に対峙する西部の暫定政権は、トルコが肩入れしており、ハフタル派との戦いにはドローンも投入されている。戦闘となれば、ハフタルが、サウジ製ドローンを戦場で使ってくれるだろうが、リビアも、現在は小康状態を保っている。サウジには、自国製ドローンの実績を積む場に乏しいという課題がある。MBSは冒険的な性格と伝えられるが、ドローンの実験になればと、7年前、イエメンに介入した時のように、暴挙に出ないことを祈るばかりだ。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。