再生可能エネルギーの開発・運用事業者である㈱レノバ(本社東京、木南陽介社長)の株価が暴落し、市場関係者の間で混乱が生じ始めている。

 同社の株価は、11月25日の5830円をピークにして、12月24日の4600円以降ストップ安を複数回続け、1月7日には1830円まで落ち込んだ、昨年の10月1日の株価1829円とほぼ同額の株価で、過去1年間で積み上げてきた株価が一気に吹き飛んだことになる。この急激な落ち込みに、「日本の再生可能エネルギーは今後どうなっていくのか」と危機感を募らせる人も多い。

 

レノバの東証一部上場以来の月平均株価チャート

 

 株価暴落の引き金は、秋田県由利本荘市沖合に計画している洋上風力発電プロジェクトにおいて入札で勝てる額を提示できなかったところにあるといわれる。

 開発にあたり同社は2015年から検討を開始し、翌年には風況観測を実施。漁業関係者とともに海底地盤調査を行うなどして地域住民との連携を深めながら2017年、由利本荘市に「秋田由利本荘洋上風力合同会社」を設立した。その後は数十回に渡り住民説明会を開催し、「地域との共存共栄」を旗頭にプロジェクトを進めてきた。このような志に賛同し、コスモエネルギーホールディングスのグループ会社「コスモエコパワー」やJR東日本のエンジニアリング会社JR「東日本エネルギー開発」、そして秋田県に電力を供給している「東北電力」が出資した。設備容量は三菱重工業グループのMHI Vestas Offshore Wind A/Sが開発した風力発電設備を採用する予定だった。

 

 一方、今回入札を勝ち取った「秋田由利本荘オフショアウィンド」に出資しているのは、「三菱商事」や三菱商事の発電事業者「三菱商事エナジーソリューションズ」、秋田の再エネ関連の発電事業者「ウェンティ・ジャパン」、中部電力グループのエンジニアリング会社「シーテック」だ。

 設備容量は81万9000kW。GEが製造する1万2600kWの風力発電設備を65基設置する。運転開始は2030年12月を見込む。

 

 では、なぜ地域密着の再エネ事業において、草の根運動をしながら信頼を重ねてきた事業者が新参のコンソーシアムに負けたのか。大方の報道では、「秋田由利本荘オフショアウィンド」が提示したFITの買取価格がkWhあたり11.99円で格安だったことを理由にあげている。その根拠となる価格面での評価は120点満点の120点。2位の入札者は84点だった。もう一つの評価点「事業実現性に関する特典」は2位に甘んずるも、価格面の成績が奏功し、評価点合計は202点。こちらも2位の157点を大きく引き離しての圧勝だった。

 

レノバが描く洋上風力発電のイメージ。「地域との共存共栄」を前面に打ち出している

 

 レノバは、陸上・洋上風力発電に限らず太陽光、水力、地熱、バイオマスと再生可能エネルギー全ての開発を担っているが、由利本荘における洋上風力発電のプロジェクトは、経営の屋台骨になるはずだった。それゆえ、地元住民と接しながら対話を重ね、洋上風力発電実現への道筋を少しずつ積み上げていった。過去の株価上昇傾向を見る限り、このような企業活動を市場関係者は評価していたのだろう。

 だが、定期的に行われている住民説明会では、地元のダイバーや海岸域に住む人々から、「低周波の被害がありそうで怖い」「秋田自慢の海岸線大きくが広がる景観が台無しになる」などの声があがり、その意見に対し司会のレノバ社員が解答に詰まる場面もしばしば見られた。報道されている通り、漁業関係者の厳しい意見はあまり見られなかったが、それ以外の地元住民の反発が強かったのだ。

 

 原子力発電所や火力発電所と異なり風力発電設備は自然と調和するイメージが強い。沖合で何十基の風力発電設備が整列して稼働する模様は絵になる風景だ。しかし、由利本荘の洋上風力は、遠浅の海岸に発電設備を接地するため、陸地との距離が近い。毎日視界いっぱいに広がる夕日を眺めていた住民なら、海に広がる風車に違和感を持つのが普通だろう。数値だけでは測れないより感情的な不安が地元住民まだ残っており、そこまでの感情を捉えることがレノバの社員はできなかったのではないだろうか。秋田由利本荘洋上風力合同会社には東北電力が出資していたが、今後関わってくるのは中部電力の子会社だ。地元との関係は着実に薄れつつある。

 

 低炭素化社会への実現という国策のもとでエネルギー政策を進めていくためには、地元の意見を全て聞いてしまうと前に進めない。原子力発電所の立地地域と同じように、一部の住民には精神面で我慢してもらうことで、エネルギー政策を進めていこうという意図が、今回の入札から見て取れる。果たして反対する住民の声を懐柔して「秋田由利本荘オフショアウィンド」はプロジェクトを完遂できるのだろうか。今後の動きが気になるところだ。

 

 

(IRUNIVERSE ISHIKAWA)