(一社)日本鉄鋼協会会報 ふぇらむ Vol.27/No.4・2022の“テクノスコープ”では、『期待される再生可能エネルギー導入-洋上風力発電』が特集された。日本の再生エネルギー導入の『切り札』といわれている洋上風力発電について国内の動きを整理したので紹介する。

 

 MIRUでは、洋上風力に関しては、昨年東京ビッグサイト(青海展示棟)で9月29日(水)から開催されたWIND EXPO「国際風力発電展」で紹介している。

 

(関連記事)

 ・WIND EXPO秋 国際 風力発電展 五洋建設「SEP型多目的起重汽船」
 ・WIND EXPO 風力発電展 JFEグループ「海風を電気に変える」

 

 

<導入のための法整備>

 2019年4月には、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下、再エネ海域利用法)」が施行され、再エネ海域利用法により事業者に最大で30年間、海域の利用を認める「促進区域」の指定がすすめられており、長崎県五島市沖、千葉県銚子沖、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖など6区域が「促進地域」として指定されている。

 

 ・kaiyou_law.pdf (meti.go.jp)

 ・https://www.meti.go.jp/press/2021/09/20210913004/20210913004.html

 

 

<洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会の設置>

 2020年7月に再エネ海域利用法を通じた洋上風力発電の導入拡大と、これに必要となる関連産業の競争力協会と国内産業集積及びインフラ環境整備等を、官民が一体となる形で進め、相互の「好循環」を実現していくことをっ目的とした「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会(以下、官民協議会)」が、経済産業省及び国土交通省により設置された。

 

 委員名簿

 ・002_01_00.pdf (meti.go.jp)

 

図 2020年12月には「洋上風力産業ビジョン(第一次)案」を発表している。

 ・002_02_02_01.pdf (meti.go.jp)

 

 

<洋上風力産業ビジョン>

 2030年までに約10GW(1,000万kW)、2040年までに30 GW~45GWを導入目標とする。

 

 さらに、2040年までの国内調達比率目標を60 %、着床式洋上発電のコストを2030年~2035年までに8円~9円/kWhとすることなどが示されている。

 

 経済産業省の発電コスト検証ワーキンググループの発電コストの資産では

2030年の電源別発電コストは

 LNG火力 10.7円/kWh~14.3円/kWh、石油火力24.9円/kWh~27.5円/kWh

であり、洋上風力発電では、これよりも低い水準を目指すことになる。

 

 官民協議会では、「洋上風力の産業競争力強化にむけた技術開発マップ(以下、技術開発ロードマップ)」を発表し、産業競争力強化と低コスト化を実現する要素技術開発を進めていくとした。

 

 洋上風力サプライチェーンを、調査開発、風車、着床式基礎製造、着床式設置、浮体式基礎製造、浮体式設置、電気システム、保守運転の8つの分野に区分して、それぞれ技術開発項目を掲げている。その中で、着床式に関しては、欧州で確立した基礎構造を、日本・アジアの地質・機構・施工環境などに最適化し高信頼性と低コスト化を実現することが必要であると指摘している。

 

 ・003_03_00.pdf (meti.go.jp)

 

 

<日本の洋上風力発電を支える鉄鋼技術>

 港湾法に基づく港湾区域の一つで、洋上風力発電設備の建設が進む秋田港・能代港洋上風力発電施設では、着床式の内、モノパイル式が採用されている。4.2 MW風車を秋田港に13基、同20基を能代港に設置し、発電容量は一般家庭の消費電力量約13万世帯分の138.6 MWに相当する(秋田県の世帯数は 384,785世帯であり、約34%相当)。2022年12月の完成を目指して工事が進んでいる。

 

 モノパイル式は砂質の比較的堅牢な海底土質に対応できる。モノパイル式とは、モノパイル(大口径鋼管杭)を基礎とし、トランジッションピースと呼ばれる部品で風車のタワーと接続する方式である。モノパイルは海底地盤に打ち込まれ、上部に取り付けられたトランジッションピースとは、グラウト接合される。グラウト接合とは、管径の異なる鋼管を同心に重ね合わせて空間にグラウトと呼ばれる材料を充填し、グラウト材(モルタル等)と鋼材の付着強度とグラウト材のせん断強度で接合する接合方式である。トランジッションピースには風車タワーが接続され、タワー上部に発電機などが収められたナセルとブレードを順に取り付けていく。

 

 鋼製タワーやモノパイル基礎などの低コスト化については、高品質の鋼材という日本の強みを生かせる分野である。大短銃鋼板の製造技術の確立や高比強度鋼材の採用などで、鋼製タワーの軽量化などによる低コスト化が実現されている。

 

 

図

モノパイル工場

 

モノパイル式基礎の新工場建設に向けた設備投資を決定 ~国内初の洋上風力着床式基礎製造拠点~ | ニュースリリース | JFEエンジニアリング 株式会社 (jfe-eng.co.jp)

 

 

<洋上風力発電設備の建設に不可欠なSEP船>

 洋上風力発電設備の建設には、SEP船(Self-Elevating Platform 自己昇降式作業台船)が用いられる。SEP船は、レグ(脚)を海底に下ろして、船体(プラットフォーム)を海面上に持ち上げることで、波浪の影響を直接受けず、比較的気象の荒い海でも建設作業ができるため、稼働率を向上させ、安全に作業することを可能にしている。

 

 

★国内初の大型クレーンを搭載したSEP

 欧州のSEP型洋上風力発電施設設置船の7割以上を手掛けるGustoMSC(オランダ)が基本設計及び油圧ジャッキシステムの製作を行い、欧州を代表するクレーンメーカーであるHuisman社のクレーンを掲載した国内初の大型クレーン搭載SEP。10MW級の風車の設置が可能という特長を持つ。

 

 

写真

写真は、模型

 

 

 CP-8001は、800トン吊全旋回式起重機船にSEP(Self-Elevating Platform)機能を付加することにより、気象海象条件の厳しい海域であっても波浪の影を軽減させ、安全性、稼働率、施工精度の高いクレーン操作ができる。

 

 

 

建造者:ジャパンマリンユナイテッド(JMU)株式会社・(株式会社JMUアムテック工場)

 

 ・多目的起重機船「CP-8001」[ソリューション・技術] - 五洋建設 (penta-ocean.co.jp)

 

 

写真

 

 

 SEP船には洋上風力発電設備の設置場所までモノパイルや鋼製タワーを輸送する役割も担っている。そのため船体の軽量化が重要となる。船舶に使用する鋼材は日本の船級規格が適用され、「CP-8001」では日本製鋼材が約3000トン、船体に使用されている。

 

 

(IRUNIVERSE tetsukoFY)