オミクロン株の感染拡大は新型コロナ問題の大きな転換点になることは間違いなさそうだ。感染が急速に拡大し、もはやコントロールできないニューヨーク市内にいると、それを実感する。爆発的な感染にもかかわらず人の波が減る気配はない。当局の意図がどうであれ、集団免疫によるコロナ禍終息への道を進んでいるようにみえる。

 

 

【世界貿易センタービル=写真中央=を背にはばたく海鳥=筆者撮影、以下同】

 

 

 「荒療治」の結果がどう出るかの予想はつかないが、慎重を期して「鎖国」を続けている日本とのギャップは広がるばかりだ。日本経済はこの現実の差をどう埋めていくのか。すぐにも答えを出さなければ、日本経済回復は立ち遅れるだろう。感染しないように、米国で人の波を避けながら歩くと、日本経済の行く末が心配になってくる。

 

 2020年3月に米国初の新型コロナ感染拡大の舞台となったニューヨーク市は、今回のオミクロン株で再び「火薬庫」になった。オミクロン株がニューヨーク市で初めて確認されたのは12月2日、その後の感染拡大はあまりにも急速だ。クリスマスの週となった12月19日からの1週間は、マンハッタンでは約50人に1人が新型コロナ(オミクロン株以外も含む)に感染した。その後も感染拡大のペースは加速している。

 

 3大ネットワークのひとつであるNBCのニューヨークのローカル局は、現在のニューヨーク市の感染拡大は「制御がきかない」状態であると伝えている。

 

 

【市内には感染テストサイトがいたるところにあり、市民が列を作る】

 

 

 ニューヨーク市での今回の感染拡大の大きな特徴は、市中心部であるマンハッタンでの感染が爆発的に多いことだ。これまでの感染拡大時は、ブルックリンやブロンクスなどでの流行が目立ち、マンハッタンだけは少ないというケースが多かったが、今回はこれまでと違うパターンだ。特にチェルシーやグラマシーパーク、ソーホーなど若者が集まるダウンタウンでの感染が深刻だ。

 

 クリスマスを挟んだホリデーシーズンのニューヨーク市中心部は、場所によってはコロナ前並みに人であふれていた。

 

 米国メディアが伝える記録的な感染拡大の「おどろおどろしさ」は街にはない。マスクをしない人と間近に接する機会は少し前に比べて格段に増えた。

 

 ニューヨーク市では、以前のような大規模なレストランの営業規制などはない。ワクチン接種者でないと屋内での飲食はできないが、店の営業停止などは現状では考えられない。

 

 オミクロン株の感染拡大でホリデーシーズンにニューヨーク市を訪れる米国内外からの観光客は若干のキャンセルはあったものの、ホテル業界を失望させるほどではなかった。

 

 年末にはおしゃれな店舗が並び、独特の雰囲気を醸し出すブライアントパークは、オミクロン株などないかのように観光客であふれた。

 

 

【タイムズスクエアに近いブライアントパークは人であふれていた】

 

 

 規制がほとんどなく、人出が多いからこその感染拡大ともいえる。ごく普通の社会生活を営めば、感染するかいなかは、運が良いか悪いか程度の違いでしかない。家族や知人、会社の同僚、学校の友人での感染例は、急速に増えたと感じる市民は多い。このため、これまで慎重に行動してきた層も、感染を覚悟している。

 

 米国では感染を食い止めるための規制ではなく、感染の現実に合わせて生活を営むための規制へと移行している。感染者が治療、完治して仕事復帰するまでの期間が短縮されたのも、これまでの規制では社会が回らなくなってしまうからだ。社会活動を犠牲にしての感染防止から、社会生活を重視する側に考え方が変わった。

 

 この年末のホリデーシーズンに航空機を使って旅行をした米国人は前年より約2.8倍となった。感染拡大でパイロットら乗務員がそろわず、連日、数百から1000本規模のフライトがキャンセルになっており、多くの国民が影響を受けた。

 

 規制期間の短縮は、ホリデーシーズンの国民の不満を解消するための措置でもあった。

 

 

【搭乗を待つ利用客でごった返す米ニュージャージー州のニューアーク国際空港】

 

 

 翻って日本はどうか。今も感染阻止を主眼とした水際規制が行われている。オミクロン株を国内に入れないということは大切なことだが、オミクロン株が確認されて以降、世界の専門家は「一律の水際規制は意味がない」と指摘し続けた。米CNNニュースは入国制限をいたずらに強めても「網戸にカギをかけているようなものだ」と日本の水際規制を念頭に批判的に伝えていた。

 

 規制には各国独自の考えがある。それはそれでいいが、経済は自国の論理だけでは動かない。自国民だけでなく、新型コロナに対する各国の動きをみながら、自国の規制を決める時期が目の前に来ていることは確かだ。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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