欧州のエネルギー危機は、この秋から産業や一般世帯に大きな影響を及ぼしているが、「記録的」と言われるガス価格高騰の背景には何があるのか?供給不足の原因には、EUの最大サプライヤーであるロシアとの政治的な要因が関連しているものとの見方が強い。しかし、一方で、EUの高いガス消費量に加え、EUにとって決して友好国とは言えないロシアへの依存、EUにおけるガス貯蓄量の低下、気候変動対策におけるエネルギー関連規制の強化など、これまでに予防策を講じていなかったEUの不手際も指摘されている。
欧州市場のガスの値上がりは、今年4月から止まるところを知らず、10月までに4倍に跳ね上がり、昨年度との比較では6倍まで上昇している(図1参照)。欧州では、電力の5分の一がガス由来であるため、このガス価格高騰が電力価格の急上昇にもつながっている。今後もこの状態はしばらく続くと見られており、EUおよび加盟各国は対策を急いでいる。
図1:今年4月からの欧州市場における天然ガス価格の推移
EUは、天然ガスへの依存率が高く、その大部分がEU域外からの輸入である。2019年における域外からの輸入は90%となっている。中でも、ロシアからの輸入が4割以上と最も高く、次のノルウェーの2割を引き離している(図2参照)
図2:国別EU域外からの天然ガス輸入(2019年/2020年)
EUにおける天然ガスの貯蓄についても、今年の貯蓄量は77%と、昨年度の95%との比較では低下していることも懸念の一つである。これは、昨年の冬が厳しく長かったことで、貯蓄量が減少したためである。今回のエネルギー危機を受けて、EUは、規制により再生可能エネルギーの利用拡大の加速化を行うと同時に、加盟国内および地域ごとの戦略的備蓄の設置を検討している。
また、EU のグリーンディール下、クリーンエネルギー移行への推進により、多くの加盟国が、ガス長期購買契約から短期契約へ移行していることも、価格の高騰に寄与しているようだ。
EU27カ国では、ガスは石油に次いで最も消費されているエネルギーだ。10年前との比較では、再生可能エネルギーなど代替エネルギーが増えたことにより、ガスの消費は減少傾向にはあるが、それでもまだガスへの依存率は高い(図3参照)。
図3:EU27カ国におけるエネルギー需要(2019年)
Sources:
(Y.SCHANZ)