一見接点のないエーゲ海の小国、ギリシャとアラビア半島の雄、サウジアラビアが接近している。26日、ギリシャ首相キリアコスは、サウジ王子、ムハンマド・ビン・サルマンと様々な分野で2国間関係強化をはかることで合意した。今回特筆すべき内容は、防衛分野での合意だ。共同軍事演習の実施など、両軍の交流、連携強化を目指していくとしている。

 

 今回、言及されることはなかったが、両国は、トルコという共通の脅威を抱えている。トルコは最近、東地中海、リビア問題などで対立してきたアラブ諸国と関係改善を目指す動きを見せていた。今回のサウジも、それに含まれている。一方、東地中海紛争の最前線に立つギリシャとは、非難の応酬を続け、本当に問題解決を目指しているのか怪しい状況であった。

 

 トルコの表面的なパフォーマンスに惑わされことなく、脅威が続く限り、共通の敵をもつ味方と包囲網を強化する必要に迫られていると言える。ギリシャは東地中海問題でトルコと対立を深めたこの数年、アラブ諸国との関係強化を目指してきた。ギリシャは、所属するEU諸国にトルコへの圧力強化を求めてきた。欧州各国は、イスラム化、専制化、侵略行為と暴走するトルコを問題視しており、特に中東に関与を深めるフランスは東地中海、リビア問題で対決姿勢を鮮明にしている。ただ、難民という最強のカードをもつトルコに毅然とした態度をとれない弱みがある。ギリシャ独立戦争時におけるような、全欧州的なギリシャ支援の構図にはなっていない。

 

 こうしたことから、ギリシャ首相は29日、「西洋諸国の沈黙がトルコを増長させている」とEU諸国のギリシャへの煮え切らない態度について不満を露にした。ギリシャは、EUに頼るのではなく、自力でトルコ包囲網を築く必要に迫られている。

 

 ギリシャは、かつてオスマン帝国から独立し、その後も干戈を交え、第一次世界大戦の折にはアナトリア領内のギリシャ人が虐殺の憂き目にあい、領土も失った。サウジは、旗揚げ当初オスマン帝国によって亡国にまで追い込まれた経緯があり、新生トルコが世俗主義を採用したことでケマル・アタテュルクが存命のうちは外交関係をもたなかったことがある。両国ともトルコに歴史的な不信感がある。

 

 冷戦期における超大国の”仕切り”がなくなり、地域大国が野心的動きを見せるようになった。それに伴い同盟・敵対関係も激変している。今回の合意は、そのことを象徴していた。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。