政府はこのほど、第6次エネルギー基本計画を閣議決定した。再生可能エネルギーを「最優先、最大限に導入する」とし、2030年度の電源比率で従来計画の22~24%から36~38%にまで引き上げるとした。一方、注目された原子力発電の比率は20~22%と、これまでの目標値を据え置くなど、全体として菅前政権が今年7月にまとめた計画案をほぼ踏襲した格好となった。(写真はYahoo画像から引用)

 

 この数カ月の政局を振り返ると、菅義偉前首相の退陣表明にはじまり、自民党による総裁選の実施、それにともなう岸田新政権の誕生、衆議院の解散といったように政治イベントが目白押しだった。間近には総選挙が迫る。

 

 国内の政治事情に加え、温暖化対策を議論する国際会議の「第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議」(COP26)が10月末から英国のグラスゴーでスタートする。

 

 日本政府は10月22日、「2030年度の温暖化ガス排出量を13年度比で46%削減する目標」をCOP事務局に提出したという。COP26を直前にして、エネルギー基本計画の閣議決定を急がなければならなかった。

 

 他方、再生可能エネルギー導入を急ぐあまり、天然ガス価格の高騰を招いている欧州や、石炭不足による昨今の中国における電力危機など、エネルギー政策の判断ミスがこうした不測の事態を招いたとの見方が広がる。

 

 脱炭素の必要性を踏まえた上で、目先の電力供給をいかに確保するかという点も重視した日本のエネルギー基本計画について「電源比率は理にかなった数字で、全体としてバランスがとれている」(エネルギー・アナリスト)との指摘もある。

 

 ただ、原子力政策に対する議論の深堀が不十分であったことも事実だろう。以前、本サイトでも取り上げたように、与党自民党は今春、原発の再稼働どころか、新増設や建て替え(リプレース)の必要性にまで言及していた。

 

 菅首相(当時)が2030年度の温暖化ガス排出量を13年度比で46%削減する目標を宣言した今年4月、自民党の電力安定供給推進議員連盟は国の原子力政策で、改訂されるエネルギー基本計画に原発の将来的な新増設や建て替えを盛り込むことを求める提言を政府に提出した。

 

 議連の会長を務める自民党の細田博之元幹事長は当時、再生可能エネルギーでは電力の安定供給に課題があるとした上で「46%目標を達成するためには原発を活用しなければならない」と力説した。

 

 2011年3月の福島第1原子力発電所の事故後、日本では国内に60基あった原発のうち、24基が廃炉となった。今回のエネルギー基本計画に盛り込まれた原発比率を達成するためには、原発27基の再稼働が必要で、しかも80%という高い稼働率が不可欠となる。現在、再稼働している原発は僅か10基にとどまっている。こうした状況下で原発比率を現在の6%から20~22%にすることができるのか。

 

 エネルギー基本計画の閣議決定について、別のエネルギー・アナリストは「電源比率で原発を何%にするのかといった議論だけでは不十分。福島第1原発の廃炉をどう進めるのか、放射性廃棄物の最終処分地など、解決すべき課題は山積している。目先の政策だけでなく、長期的な視点でエネルギー政策を提示すべき」とし、原発に対する議論をもっと深堀すべきとの考えを示した。

 

 国際社会に目を向けると、バイデン米政権は原子力政策に前向きな姿勢を示している。また、最近では英国のジョンソン首相やフランスのマクロン大統領が、自国の原子力政策を推進する意向をそれぞれ表明済みだ。中国やロシアも原子力政策に積極的な姿勢だ。こうした動きに日本は歩調を合わるのか。そうでないとすれば、どのような未来像を描くのか。

 

 メディア報道でみる限り、総選挙への影響を意識してか、原子力政策について岸田文雄首相の明快な発言は有権者に届いていないように映る。野党もまたしかりだ。「原発推進」とか「原発ゼロ」といったスローガンだけでなく、使用済み燃料を再利用する核燃料サイクルの方向性や、放射性廃棄物にかかわる最終処分地の選定など、具体的な原子力政策の提示を有権者は求めている。

 

 

阿部直哉

 Bloomberg News記者などを経て、Capitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。