イスラム主義組織タリバンが、アフガニスタンの首都カーブルを制圧してから1カ月が経とうとしている。アフガン紛争は、タリバン勢力に肩入れした中国、パキスタン、イランなどの国々による米国への勝利ともいわれる。実はその中に、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のトルコも入っている。トルコは2002年以来、NATOの一員としてアフガニスタンに部隊を駐留させていた。欧米諸国の部隊と異なり、戦闘に従事せず、ムスリム国家同士ということもあり、テロ攻撃のターゲットになることが少ないとされてきた。それは政府系新聞のいう「占領軍の一員とみなされてことなかった」ことが大きい。

 

 トルコは、エルドアン大統領の言うように未だタリバン政権と正式な合意などを交わしていない。しかし、トルコはシリアにおけるイスラム過激派支援疑惑などから、タリバンとの関係に疑念の目が向けられている。同じくタリバンに接近する中国は、タリバンと損得勘定だけのつき合いであるが、トルコはイスラム主義を共有しイデオロギー面で近い関係にある。

 

 中国は、ウイグル問題もありイスラム主義的活動を厳しく取り締まっているが、トルコは政権与党がイスラム主義に傾倒していることもあり、タリバン支持者の活動は容認されている。昨年、モスクに改修されたハギア・ソフィア大聖堂に、タリバン支持者と見られる男が旗を掲げ「神は偉大なり」と叫ぶ様子を収めた動画が出回り、EU議会でも本件に関する質問が出た。

 

 トルコ国営通信は、国際的承認を求めるタリバンの宣伝活動の片棒を担いでいる。実際、タリバンの協力なくしてありえない取材記事を連発している。タリバン最大の拠点カンダハルの武器商人の記事はその一つだ。タリバンに銃器を卸していたというこの商人は、戦争終結にともない武器の廃棄処分を進め閉店する予定だということだ。「タリバンは武器取引を望まない」とする小見出しを最後につけるなど、タリバンが保有していた武器が、方々に出回ることはないと示唆する。つまり、各国が懸念するタリバン統治下のアフガニスタンがテロの温床にはならないとのタリバンの主張を代弁している。

 

 また、最近は、タリバン創設者オマルが生まれた村を訪問する記事を公開している。この寒村に、アフガニスタンを統べることとなったタリバン元指導者の如何なる原点があったかという内容で、タリバンの提灯記事である。

 

 中国がアフガニスタンにおける利権を狙っているのに対し、トルコはどうか。トルコのアフガン大使は、タリバンに対し、トルコ企業による投資は続くと伝えた。ただ、リビア、シリアなどトルコが本格的に介入する国々・地域に比べると、経済面での情報は少ない。トルコのタリバン支援は物質的な中国のそれに比べ、イデオロギー面、ソフト面に偏っていると言える。

 

 エルドアンはかつてのオスマン帝国のスルタン同様、自身をムスリム諸国の盟主だと信じ、イスラム主義者を先兵とし近隣諸国への介入を続けてきた。そこにイスラム国の闇原油など経済的利権が絡む、テロ支援の構図がある。

 

 タリバンがテロ組織かどうかは見解の分かれるところであるが、イスラム主義勢力としてエルドアン政権の肩入れは不可避であった。それは、米国はじめNATO諸国との間に開いた溝をさらに広げることになる。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。