石油業界の変遷について② 世界と日本の石油産業の歴史」からの続き

 

 

石油会社がEVを推進するのは理にかなっている

 以上これまで出光興産のEV進出のニュースをとっかかりとして石油産業160年の歴史の概略をたどりながらその変遷をたどってきたが、石油業界一つのターニングポイントは、1990年以降、石油供給の不安定化とともに、需要面でも着実にその量を減らしているところにあるようだ。

 

 ではこの時期石油業界以外ではどのような出来事があったのだろうか。1992年に国連で採決された「気候変動枠組条約」では、地球は急速に温暖化が進んでおり、その原因はCO2(二酸化炭素)の量が地球上で増えたことに伴う温室効果現象によるものだという危機感が世界中で共有され、燃料として使用する際CO2を大量に排出する石油を削減する方向性が明示された。

 

 これを受け国内外の自動車メーカーは、パワーよりも燃料を効率よく燃やすエンジンの開発が推奨されるようになり、新車が発売されるたびに全走行におけるガソリン代は減る傾向になっていった。例えば先程の出光興産の事例でみると、ピーク時の1994年には6万421カ所あったサービスステーション(SS)の数が19年には2万9637カ所と約2分の1まで減少している。

 

 このように、日本国内で見てもガソリンの需要は1990年台から着実に減少傾向をたどっていることがわかる。ゴーイングコンサーンをめざす企業だったら、通常はガソリンという衰退事業への投資をすることは難しいだろう。しかし、石油元売りの場合、精製の際、ガソリンと同時にLPガスやナフサ、ジェット燃料、灯油、軽油、重油が同時に生産されるため、ガソリン以外の需要がある限りは精製し続けなければならない。

 

 そのため、精油所でのガソリンの生産を容易に減らすことができないし、SSもなくすことはできない。ならば、これまでの資産を有効活用して何かできないか。そこで出光興産が目をつけたのが、2016年にメルセデスが長期戦略で発表した「CASE」という概念だ。これは車同士をコンピューターや情報端末と連携させる“Connected”、車を自動運転で走らせる“Autonomous“、自動車を個人でなく複数で所有する” Shared“、車の動力源を電化にする” Electric“の4語の頭文字を取っている。

 

 「IDETA」はまさにこの概念を実現しようとしているのではないだろうか。先述したとおり、「IDETA」は個人が所有するよりもむしろサービスステーションを軸として複数名で利用する用途に使われるという。例えば中山間地域にあるSSだと、高齢者が病院に通うときにIDETAを利用することが想定される。その際、充電はSSで行われるので、寄り合い場としての機能も加わるだろう。SSは自家用車のガソリンを給油するあるいはメンテナンスを行う場を超えて、公共施設としての機能を持とうとしているのだ。SSを基軸にしてシェアするEVが登録者を通じて周辺にいる住民とつながり、情報発信基地になる。日本の石油元売りではじめてEVに参入した出光興産の選択は、衰退するSSの有効活用と、最新概念の「CASE」を組み合わせた戦略性に満ちた選択であったといえそうだ。

 

 

(IRUNIVERSE Ishikawa)