今年の4月、違和感を覚えた石油業界の報道があった。

 

 石油元売り大手の出光興産が競技用の自動車を製造するタジマモーターコーポレーションと共同で出光タジマEVを設立し、4人乗りの超小型電気自動車「IDETA(イデタ)」の販売を検討するというのだ。車両の最高速度は時速60km、走行距離は120km前後と通常の電気自動車(EV)のように高速道路を走行するなどした長距離走行はできないが、高齢者にもやさしいデザインで、町中を移動する普段乗りには十分に耐えられる作りになっているという。

 

→(関連記事)超小型EVで市場参入!出光タジマEVオンライン記者会見 将来的には電池製造も

 

 販売は2022年を見込み、車両価格が150万円以下と低価格だ。しかしよく考えてほしい。いくら欧州・中国・米国を中心とした国々がEVシフトを顕在化しているとはいえ、原油を精製してできるガソリンや軽油を主要製品としてる出光興産が自らEVを販売する必要があるのだろうか。同社の資料によると、現在約6400カ所あるサービスステーション(SS)にEVの充電器を設置し、サブスクリプションを通じてシェアリングやメンテナンスのサービスをIDETAの登録者に提供していくという。

 

 本来石油元売りの主力製品はガソリンだ。内燃機関を使用する自動車への提供をおろそかにしてまで、EVを普及させる必要があるのだろうか。その問いに対しては、IEA(国際エネルギー機関)が5月に発表した報告書“Net Zero by 2050:A Roadmap for the Grobal Energy Sector”で一つの回答を出している。

 

 

図

 

 

 同報告書では、IEAが化石燃料の安定供給を目的として石油危機後の1974年に設立されたにもかかわらず、今後は再生可能エネルギーを主軸としたエネルギーの安全保障と経済成長へと転換していることが明確に示されているからだ。例えば「ネットゼロに向けた道のりの中で鍵となる道標」のオレンジ色で示されている運輸部門を見ると、2030年には「世界の自動車販売の60%がEVになる」、2035年には「大型トラック販売の50%がEVになる」「内燃機関自動車の新規販売が終了する」と示されており、意外にもEV普及をIEAとして前向きな方向で捉えている。では、そもそも石油はいつ頃から悪者扱いされるようになったのだろうか。

 

→②に続く

 

 

(IRUNIVERSE Ishikawa)