南氏は、平成2年4月より、通商産業省に入省。その後米国留学を経て、独立行政法人日本貿易振興機構 ニューヨーク・センター貿易保険事務所長として勤務。

 

 平成22年8月に資源エネルギー庁長官官房国際課長、平成24年12月に資源エネルギー庁資源・燃料部石油・天然ガス課長、平成27年7月に通商政策局欧州課長を経て平成30年7月に資源エネルギー庁資源・燃料部長に就いた。この度8月23日(月)経産省にて行われた、就任会見の模様をお伝えする。

 

 

就任にあたっての抱負

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 今回このポジションに就いた事で、カーボンニュートラルに関する国際的な連携・協力を省内で統括して行っていく。G20とかCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)、G7(主要国首脳会議)について経済産業省資源エネルギー庁の方針を取りまとめて各国と協議していく。

 

 我が国は昨年12月に総理が2050年のカーボンニュートラルを目指すという発言があり、2030年には46%のCO2を削減する事になったが、その目標を達成するに当たり米国や欧州、アジア各国と連携して行っていく。

 

 私は3年間資源エネルギー庁資源・燃料部長だった時に、脱炭素の政策を何度かやらせて頂いた。その折にカーボンリサイクル(CO2を資源として使用する方針)に取り組んだ。セメント等から排出されたCO2を使いメタンを作成したり合成燃料の開発に取り組むといった「イノベーション(経済的技術革新)」の経験を活かしていきたい。

 

 燃料アンモニアの導入も推進しており、これは日本のCO2の大きな排出源の一つである電力に応用可能である。燃料転換の難しさもあり技術的な課題も多いが、導入までの流れを国際的なものにしていきたい。

 

 CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)も担当していた事があり、これは2050年のカーボンニュートラルという事を考えると非常に重要な手段である。その為のルールが大事と捉えており、国際的なルール形成についても取り組んでいきたい。

 

 

2030年の46%削減目標や2050年のカーボンニュートラルを見据えて

 日本政府は全力で取り組む必要があると考えているが、その為に大事な要素が3つあると考えている。

 

 1つにはカーボンニュートラルという目標は先進国が掲げている目標で、日本にとってもチャレンジングな目標である。しかしどの様に達成するかという形においては各国で随分違う。日本には日本なりのカーボンニュートラル達成の仕方があり、エネルギー基本計画で議論してきた事である。

 

 ヨーロッパやアメリカで議論されているのとは違う方針で、日本は特にイノベーションをしっかりやっていこうという方針を固めている。

 

 つまるところ国に応じたカーボンニュートラルのやり方を目指すことが必要であり、それぞれの国に強み弱みがあるのだから、日本には日本にベストなやり方を行っていくべきである。

 

 2つ目はイノベーションが重要と考えている。今後10年くらいしっかりカーボンニュートラルに対しイノベーションを取っていく時期。

 

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に造成された2兆円の基金を元手に研究開発が始まっており、現状での日本の強みである水素燃料や燃料アンモニア、カーボンリサイクルといった技術を生かしてイノベーションを創出していく。

 

 そして各国もイノベーションに対する重要性というの同じであるから、各国との協調の中でそれぞれの成果をシェアする事で効果的にイノベーションを図っていく

 

 3つ目は新興国に対するエンゲージメントを進めていきたいという姿勢である。

 

 やはりカーボンニュートラルは世界で達成しなくてはいけない目標であり、日本だけ達成しても意味がない。

 

 日本は世界のCO2排出量のうち3%を占めており、これから日本が作っていくイノベーション、技術を新興国にエンゲージメントしていくことで新興国や途上国のCO2排出削減に繋げていきたい。

 

 国際的な連携という中で、アジア各国に対してもエンゲージメントを進めていきたいと考えている。

 

 具体的に言えば10月第一週に「東京ビヨンドゼロウィーク」という物を開催し、そこでは日本なりのカーボンニュートラルの進め方や水素やカーボンリサイクルなどのイノベーションや、新興国へのエンゲージメントをテーマに話を進めていく予定である。

 

 

第6次エネルギー基本計画案について

 2050年のカーボンニュートラル、2030年の46%削減を目指すにあたってS+3E(安全性前提の自給率、経済効率性、環境適合)という考え方で計画を策定している。

 

 今は調整の最終局面であるが、2兆円基金など現在動いている政策を中心に進めていきたいと考えている。

 

 今回付け足された要素として気候変動の見方がある。気候変動についてはグローバルな問題であり、我々のエネルギー政策について国際的な関心を集めるししっかり理解してもらう事も大事である。

 

 こういった状況で海外に出向く事は難しいものの、機会を見つけて政策への理解を深める様にしていきたい。

 

 菅総理は2030年の新たな削減目標はもちろんのこと、2050年カーボンニュートラルへの対応は我が国の経済を力強く成長させる原動力となる。こういった考えに基づくと次の成長戦略に相応しい野心的な目標であると表明されている。

 

 この達成に向けては排出量の8割を占めるエネルギー分野の取り組みや製造業の協力が不可欠で、産業界と協力して進めていく。

 

 2050年を見据えて電化・電力の脱炭素化、水素社会の実現、CO2の固定化とリサイクル。こういった重点分野における技術開発や社会実装(イノベーション)に取り組みつつ2030年に向けては徹底した省エネや再生可能エネルギーの最大限の導入、安全性優先の原子炉の再稼働を進めていきたい。

 

 2030年の46%削減については2050年のカーボンニュートラルを見据えた取り組みである。

 

 2030年目標の達成に向けた具体的な政策を取りまとめる地球温暖化対策計画や2050年カーボンニュートラルを見据えた長期戦略については、現在中央環境審議会や産業合同審議会で議論が進められている。

 

 

欧州の動きについての所見

 欧州委員会で発表されたFit for 55(欧州圏のCO2排出量を55%削減することを目的とした政策)について、炭素国境調整措置や2035年までにハイブリッド車を含むガソリン車販売の実質的販売禁止等が盛り込まれている。

 

 しかし今発表されているのは欧州委員会の案であり、EU加盟国や欧州議会で議論されるだろうし物によっては随分と形が変わっていくのではないかと考えている。

 

 私は資源燃料部長の前は欧州課長というポジションであったが、CO2の問題について随分違うという印象を抱いている。例えばフランスは8割原子炉による発電であるが、東欧の国家は石炭火力の発電方法が多い。つまり西側の製造業が東側へ移動しており、それによりCO2の増減が発生していると見られる。

 

 今後の議論は非常に重要であり、気候変動問題に対応するとやはりコストが掛かる。しかし今までのやり方だとコストに対する議論はあまりされていない。我が国としてもどの様な議論が欧州でされているのかという事について感心がある。

 

 CBAM(炭素国境調整措置)についてはWTO始めとした基本の国際枠組み、整合性は確保されるべきだと思っている。

 

 また恣意的な運用が為されてもいけない。執行面は多くの課題があり、欧州委員会に対して透明性を持った情報の提供を求めていきたい。色々な国がこのCBAMを評価しているので、情報交換をしながら対応していく。

 

 自動車政策については、欧州は日本の自動車企業において販売割合が1割を占める。我が国の政策としては国際的な動向を把握しながら、地球温暖化対策計画の改定案などについて政策を具体化していきたい。

 

 

CO2排出国の動きに対する見方やCCSに対する評価

 今は中国一国でG7の国々の合計より多いCO2を排出している。中国を始めインド等に対してしっかりとした働きかけは必要と考えており、COP26の前にG20があるが大排出国の抑制に務めていきたい。

 

 また火力発電に対するあり方についてはG7でも議論された話題であり、日本国内ではCO2排出抑制について非効率石炭火力発電をフェードアウトさせていく方針で取り組んでいく。

 

 CCSについてはイギリスのシナリオを見ても欧州委員会やアメリカを見ても、CCSは絶対に必要だと考えているようである。

 

 我々としても同じ方針を採っているが、日本ではまだまだ実績が無い状況である。苫小牧でCCS実証試験で使われた30万トンという量では少ないものだ。そのため国内ではCCSに対し中長期的なロードマップを作って進めていくという方針である。

 

 このCCSについては今まで油田やガス田で行われてきた手法であり、海外に技術的な蓄積が存在する。

 

 発電所から出たCO2をキャプチャーする技術は日本が高い技術を持っているが、どの様にCO2を埋めていくのかという経験についてはアメリカが強い。そういう事もあり、相互に知識の交換を行いながら進めていきたいと考えている。

 

 日本に存在する帯水層にCO2を入れる点については可能であるが、現状のネックはCCSの技術的な問題ではなく経済性の問題である。

 

 海外で処理をする為CO2を輸出していくのも良いが、どういった方法で一番安くCCSが出来るのかという事が重要である。

 

 現状CO2の運送は炭酸水であったりドライアイスであったり結構行われている為、CCSのコストをどこまで下げる事が出来るのかという事が肝要になっていく。

 

 またメタネーション(水素と二酸化炭素によるメタン合成)やカーボンニュートラルLNG(CO2排出量を実質ゼロと見なす液化天然ガス)等については民間企業の動きが早く、公共においての位置づけがはっきりしていない。

 

 しかしはっきりとした位置づけを付与し、こういった要素を用いてグローバルにCO2を減少させる方向に持っていきたい。

 

 

合成燃料への所見とカーボンニュートラルに向けた手法の多様化

 合成燃料については過去に自分が取り組んできた内容でもあるが、水素と炭素から新しい人工の石油を作るという事はコストが掛かる。しかしコストの部分が克服できれば、今のインフラを活かすことが出来る。

 

 現時点では方針を確定させず、また目標までにまだ時間がある事から受け皿を広くしていく。今後例えば10年での研究開発の進捗を見ていくし、合成燃料も可能性を含めて評価をしていく。

 

 国際的にも日本の考え方を理解してもらい、合成燃料のプレゼンスを固めていけるよう手掛けていきたいと考えている。

 

 合成燃料は今の原油ほど安くするのは難しいし、脱炭素をする為のコストとの兼ね合いが出てくる。

 

 そしてカーボン・クレジットに対しては最近猛烈に普及している為、これからそのルールを策定する必要はあると考えている。

 

 しかし脱炭素の手法は多ければ多いほど良いと考えている。例えば再生可能エネルギーのみに手法を一元化すると対応できない国家が出てくる。

 

 先述した様にカーボンニュートラルの手法は国それぞれであってオプションが多いほうが良く作用するので、例えば合成燃料についても物になるようにサポートをしていくし、その上でこれから採る方針を一元的に確定するやり方は適当ではないと考えている。

 

 

広い受け皿を用意しコストの低さを重視していく道へ

 エネルギーの価格は最終的に消費者に添加されるので、どういった手法が一番コストが低いのかという事を念頭に置く必要がある。

 

 例えば現状コストの高いメタネーションについては、これから再生可能エネルギーの電気が安くなるとなればガスの道管を全て水素にするというのも考えの一つである。

 

 自動車もガスも、いわば色々なトライアンドエラーと競争の果てに現状の価格まで安くなっているので、エネルギー問題に関しては一番根っこの原料の所からか一番最後の処理方法の所から仕組みを変えるとアプローチしやすいと捉えている。

 

 そして日本のカーボンニュートラルは菅総理が宣言してからまだ一年も経っていない。その為今の知識や状況で先々の展開を決めるのではなく、受け皿を広くしてチャレンジしていく事が相応しい。

 

 メタネーションや合成燃料についても経産省としてコストを追求していくべきだと考えている。

 

 省エネルギーの徹底と再生可能エネルギーの導入が進んでいけば、自然とエネルギーそのものの調達が控えられていく。

 

 高騰するエネルギー資源の価格については需要サイドファーストという考え方で進めて行きたい。

 

 

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写真 R.Ichimura


IRuniverse取材記者、フリーランス取材記者

東京都郊外在住。元新聞社所属で、主にVRやバーチャルYoutuberといったサブカルチャー界隈に軸足を置いて取材活動を行っている。

神社巡りなどの散歩や食べ歩きや音楽鑑賞など他に、動画制作も趣味としている。
  *VR系イベントやxR領域での取材やイベントのお話を頂ける場合は、MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話よりお問い合わせください。
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