米国人の朝食に欠かせないベーコン。焼いて食べるだけでなく、ソフトドリンクやデザートでもベーコン風味を楽しむ米国人の「ベーコン愛」は、日本人の想像を絶する。そのベーコンが、カリフォルニア州で気軽に購入できなくなる日が近付いている。家畜の飼育環境改善を義務付ける法律が来年、施行されるが、ベーコンの原料となる豚の飼育業者のほとんどが、この法律に定められた飼育環境を構築できずにいるからだ。米国メディアは「カルフォルニア州からベーコンが消える」とセンセーショナルに伝えている。

 

 この法律は「Prevention of Cruelty to Farm Animals Act」(家畜虐待防止法)で来年1月に施行される。「Humane Society of the United States」などの動物愛護団体が、家畜を小さなケージで飼育するのは虐待行為だとして、より広いスペースでの飼育を定めるよう提案。2018年11月に住民投票が行われ、同法が成立した。農業団体などは猛反発。大手メディアでもロサンゼルス・タイムズが賛成、サンフランシスコ・クロニクルが反対と法案への意見が分かれたが、結果は賛成62.65%、反対37.35%と大差を付けての成立だった。

 

 カリフォルニア州の市民は、住民投票の際に、この法律でベーコンが気軽に食べられなくなるとは思いも至らなかったのだろう。

 

 家畜虐待防止法では、繁殖用の豚、産卵用の鶏、食肉用の子牛の飼育について、より広い環境で育てることを義務付けた。鶏と子牛については、ほとんどの飼育業者が法律による規制に対応できるが、養豚業については約4%の業者しか対応できないという。

 

 豚の場合、1頭当たりの飼育面積は現在、最低20平方フィート(1.858平方メートル)だが、来年1月からは最低24平方フィート(2.23平方メートル)になる。現在の米国の養豚業者は、コスト面などでこの拡張に対応できないという。

 

 家畜虐待防止法に違反した業者は、カリフォルニア州内で生産物を販売することはできない。カリフォルニア州以外の業者も、家畜虐待防止法に基づく条件で飼育されていなければ、カリフォルニア州内での販売は許されない。

 

 カリフォルニア州の豚肉消費量は、全米消費量の約15%を占める。カリフォルニア州内の1カ月の消費量は2億2500万ポンド(約10万2000トン)で、このうち州内産は4500万ポンド(約2万400トン)にとどまり、多くは他州産の豚肉を消費していることから、法律の施行は全米の養豚業者に大きな影響を及ぼす。

 

 ノースカロライナ州立大学の試算では、繁殖用の豚を1000頭ほど飼育する養豚業者の場合、1頭当たりの飼育コストは現状より約15%増加するという。

 

 コンサルタント会社のハタミヤ・グループによると、カリフォルニア州で豚肉の供給が突然、半分に減った場合、ロサンゼルスではベーコンの価格は60%ほど跳ね上がるといわれている。米国では1パック6ドルで販売されるベーコンをよく見かけるが、これが9ドル60セントになる。

 

 動物愛護団体は2000年代に入り、家畜の飼育環境改善についての訴えを強めてきた。カリフォルニア州内では2008年以降、いくつかの法令ができ、業者はそのたびに飼育環境の改善を迫られた。カリフォルニア州以外でも、アリゾナやコロラド、フロリダ、ケンタッキー、メーン、マサチューセッツ、ミシガン、ネバダ、オハイオ、オレゴン、ロードアイランド、ユタ、ワシントンの13州で飼育スペースを広げる法律や規則ができている。

 

 ただ来年1月に施行されるカリフォルニア州の家畜虐待防止法は、これまでの養豚業の基本をも変えてしまう内容のため、消費者も対価を払うことになってしまう。

 

 カリフォルニア州で「ベーコンクライシス」が起きる直前にも、米国では食品をめぐる別の騒動がありそうだ。

 

 11月の感謝祭(サンクスギビング)には、米国人は家族そろって七面鳥を食べる。その七面鳥を買う際、今年は好みのサイズが買えなくて四苦八苦する事態に陥りそうなのである。

 

 ニューヨーク・ポストは、米国の大手七面鳥生産農家、シャディ・ブルック・ファームのブローカーが7月末、食品スーパーなどに異例の手紙を送っていたと報じた。

 

 感謝祭とクリスマスシーズンに生の丸ごとの七面鳥を注文通りに提供することを約束できない、という内容だ。

 

 近年、七面鳥の需要は減少傾向にあり、生産農家はコストと出荷量の調整に苦しんできた。新型コロナウイルスの感染拡大で経営環境はさらに悪化し、農家としては七面鳥を大きく育て、冷凍して販売することが、無駄なく販売できる方法となった。

 

 しかし、感謝祭に大きなパーティーができなくなった市民は16ポンド(約7.2キロ)以下の小さめの生の七面鳥を求める傾向を強めている。生産者と消費者の間のギャップが大きくなり、消費者に人気のある、小さめの生の七面鳥の生産が需要に追いつかないという。

 

 飼料であるトウモロコシの価格も跳ね上がっている。飼育のための人出も足りない。生産農家と販売業者は、秋になる前から感謝祭での「七面鳥クライシス」を覚悟している。

 

 

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Taro Yanaka

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 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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