海底にある鉱物を対象とする深海採掘は、半世紀ほど前からあるアイディアでありながら、これまで商業規模での実現には至っていないが、貴重な金属を海洋へも求める動きは、近年ますます高まりを見せているようだ。例えば、クラリオン・クリッパートン破砕帯(CCFZ)と呼ばれる太平洋中央部の海域の中には、「多金属ノジュール」と呼ばれる、ニッケルやコバルトを豊富に含む岩石が膨大に埋蔵されている場所があると推定されているという。

 

 一方で、深海採掘には否定的な意見も多い。環境、あるいは海洋生態系への影響の大きさを懸念する声が主なものである。このあたりの最近の動向を、簡単にご紹介したい。

 

 まず、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)やScripps海洋研究所の研究者たちは、深海での採掘による土砂の噴出が環境に与える影響について、これまでにない研究を開始している。

 

 採掘船が海に放出する可能性のある乱流堆積物のプルームを調査するため、今回初となる海での実験を行った同チームは、この観測結果に基づき、採掘作業で発生した土砂プルームの海中移動に関する現実的な予測モデルを開発した。7月27日、MITは、この研究結果が「Nature Communications: Earth and Environment」に掲載されたことを報告している。

 

 大まかな研究結果としては、堆積物はプルームの中で大きな集合体を形成し、比較的早く深海に沈むのではないかという推測に反し、実際には、放出は堆積物を最も細かい構成要素に分解するほどに乱れており、その後は、堆積物がくっつく機会がないほど急速に希釈されることが分かったという。

 

 なお、同チームによれば、今回の研究は今後の国際的な議論や規制の策定に大きく貢献するものになりうるものであるとのことで、この予測モデルは現在、生物学者や環境規制当局によって、堆積物の流れが周辺の海洋生物に影響を与えるのかどうか、あるいは与えるのであればどの程度なのかを正確に判断するために使用可能であるとのこと。また、同チームは、環境問題の核心は堆積物の噴出範囲にあるとして、引き続き研究を進めていくという。

 

 このほか、英国のExeter大学をはじめとするチームも、海底採掘に関する研究を行っているようで、7月29日にミラージュ・ニュースが報じているところによれば、同チームは学術誌「Frontiers in Marine Science」への最近の寄稿の中で、深海採掘の必要性に異議を唱え、商業的な採掘活動によって生態系や生物多様性に生じるリスクを強調しているという。

 

 こうした背景には、ナウル島が、カナダに本社を置く鉱物企業The Metals Companyと共同で海底採掘許可の取得を目指し、国際海底機構(ISA)へ、2年以内の規則の完成を要求した経緯が挙げられる。これによりISA は、2年以内に規制を完成させられなかった場合には、合意規則のないまま採掘申請に直面することになるというのだ。

 

 Exeter大学のKirsten Thompson博士は、“増え続ける鉱物需要、特にグリーンテクノロジーへの移行に伴い、海底資源の採掘は今後必要不可欠となっていく”といった風潮に反論。「こうしたシナリオは鉱業会社らによって語られているもので、彼らは深海採掘を、地上での採掘と比較すれば“ましな選択肢”であると吹聴していますが、陸上と深海の生態系が持つ本質的な価値を比較することは不可能です」、「深海での商業的採掘を許可する他には手立てがない、という誤った考えを覆すことが必要です」と語っている。

 

 

(A.Crnokrak)

 

 

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 豪州シドニー在住。翻訳・執筆のご依頼、シドニーにて簡単な通訳が必要な際などには、是非お声がけください→MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

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