経済産業省は7月21日、国のエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画」の改定案を公表した。温室効果ガス(GHG)の排出削減に向け、2030年度の電源構成の見直しなどが示された。(写真はYahoo画像から引用)

 

 経産省はエネルギー基本計画の改訂に向けた取り組みを2020年10月から開始していた。改定案では、2030年度の新たな電源構成について、総発電量に占める太陽光や風力などの再生可能エネルギー比率を36~38%に引き上げた。現行計画は22~24%である。

 

 また、原子力を20~22%と据え置いたほか、原発の新増設や建て替えにかかわる表記を見送った。太陽光など再生可能エネルギーの比率が大幅に増加した背景には、国際社会で脱炭素に向けた取り組みが急ピッチで進んでいることがある。菅義偉首相も今年4月、2030年度のGHG排出量を13年度比で46%削減する目標を宣言。これが国際公約となったため、改定案では再エネ導入の促進が不可欠となった。

 

 一方、エネルギーを安定供給するためには、気象状況によって発電量が左右される太陽光など再生可能エネルギーに依存しすぎると、停電といった不測の事態にもつながりかねず、専門家の間では「再エネ重視に偏りがちだ。原発政策の位置付けをはっきりとさせたほうがよい」(エネルギー・アナリスト)との指摘も出ていた。

 

 原子力政策を推進するバイデン米政権に歩調を合わせるため、与党自民党は今春、原発の再稼働どころか、新増設や建て替えの必要性にまで言及するようになった。菅首相の「46%削減」表明の翌日、自民党の電力安定供給推進議員連盟は国の原子力政策について、今夏をめどに改訂されるエネルギー基本計画に原発の将来的な新増設や建て替えを盛り込むことを求める提言を政府に提出した。

 

 議連の会長を務める自民党の細田博之元幹事長は再生可能エネルギーでは電力の安定供給に課題があるとし、46%目標を達成するためには原発を活用しなければならないと見解を示した。このほか、自民党は「脱炭素社会実現と国力維持・向上のための最新型原子力リプレース推進議員連盟」を4月半ばに立ち上げ、安倍晋三前首相らが顧問に就任した。

 

  2011年3月に起きた、福島第1原子力発電所の事故後、日本では国内に60基あった原発のうち、24基が廃炉になった。現在、33基(3基は建設中)が現存するものの、再稼働しているのは10基にとどまっている。原発の是非でなく、電源構成を現実問題として考えた場合、原発のあり方を無視して2050年のカーボン・ニュートラルを実現できる可能性は極めて低いだろう。

 

 原発政策にかかわる政治家らの言動が目立ってきたものの、7月初旬に実施された東京都議会議員選挙で、自民党候補者の議席獲得が伸び悩むなど、風向きが変わった。新型コロナウイルス対策や東京五輪の開催是非をめぐり、菅政権に対する支持率の低下もあり、総選挙を控えた国会議員たちにとり、国民に不人気な原発政策は総選挙で不利に働くと判断しているようにも映る。結果的に、改定案には原発の新増設や建て替えにかかわる表記が見送られた。

 

 前出のエネルギー・アナリストは「総選挙が迫っているため、経済産業省は政治家から敢えて(原発政策を)論点にするなと圧力をかけられたと忖度してしまう。目先のエネルギー政策でなく、長期的なビジョンに立脚した計画を立案してほしかった」と語る。

 

 新たなエネルギー基本計画は、有識者らのヒアリングなどを踏まえた上で、9月にも閣議決定される見通しだ。



 

阿部直哉 

 東京生まれ。Bloomberg News記者などを経てCapitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。