大豆価格の高騰が豆腐メーカーの経営を圧迫している。零細規模の多い国内の豆腐業界では、新型コロナウイルスの感染拡大前も後継者難などの理由で、経営存続問題が喫緊の課題とされてきた。大豆高騰に加え、コロナ禍によって豆腐メーカーは再び、存亡の危機に瀕している。(写真は2013年に都内で開催された全国豆腐連合会の集会の様子)

 

 穀物市場では現在、シカゴ商品取引所(CBOT)の大豆先物(期近物)が1ブッシェル当たり14ドル台前半で推移している。5月半ばに付けた同16ドル台半ばからは調整局面にあるものの、上昇基調に転じた1年前に比べると、5~6割高の高水準にある。

 

 シカゴ市場での大豆高騰は、中国からの旺盛な需要を背景に海上運賃の上昇などが主因となっている。日本は輸入大豆のうち、米国産が7割近くを占める。遺伝子非組み換え(Non GMO)大豆を輸入する日本についてはプレミアム(割増金)も上乗せされる。また、燃料費として重油を使用するが、原油価格の高騰も国内豆腐メーカーの経営を直撃する。

 

 厚生労働省によると、豆腐製造業事業者数の推移で営業許可事業所数(暦年ベース)は昭和35年の5万1,596軒をピークに年々減少している。平成5年に1万9,394軒と、2万軒の大台割れ。平成18年に1万三3,000軒を下回り、平成19年に1万1,839軒となった。平成22年に1万軒の大台を割り込み、平成25年には8,017軒となるなど、減少に歯止めがかからない。

 

 減少トレンドが続く理由について、豆腐業界団体の全国豆腐連合会(東京・台東区)は、機械化が進んだことや、スーパーマーケットなど大型店を通す販売が加速、一定の事業規模が必要になったためと分析する。これらに加え、大豆や重油などコモディティ価格の上昇、外国為替市場での円安ドル高の進行、不当廉売の横行、事業者の高齢化など、複合的な要因が指摘されている。

 

 もっとも、豆腐メーカーが危機感を露わにするのは今回が初めてではない。2008年の大豆相場高騰のあおりを受けて、経営危機に陥った豆腐店が目立ち、社会問題となったことは記憶に新しい。当時、東京都内では1カ月に10軒が店をたたむなど、深刻な状況だった。このペースでいくと、都内の豆腐店約1,200軒の半分近くの存続が危ぶまれるとの指摘もあった。

 

 こうした状況下、市場関係者の間では豆腐価格が「1丁500円になる日が来る」とのシナリオが広がったのも事実だったが、もっと大きな問題を内包していた。爆食国家、中国の旺盛な食料需要を背景に、2008年は穀物ほか、原油や鉱物価格など、ありとあらゆるコモディティ価格が高騰し、当時の最高値を更新した時期だった。

 

 豆腐メーカーにとり、原料となる大豆高騰に原油高が加わるなど、生き残りのため、値上げが必至となるが、販売価格は低下した。同年6月の一世帯当たりの豆腐購入価格は1丁86円で、1年前に比べ4%安い水準に落ち込んでいた。

 

 一方、大豆調達価格は当時、2007年1月比で6割高い1トン当たり9万5,000円。業者からすれば、調達価格が上昇しているのに販売価格は安くなっているということになる。つまり、大豆の高値水準が続くと想定すると、豆腐が1丁500円という破格の値段を付ける前に、ほとんどの豆腐店が潰れるという事態もあり得るという見立てだ。

 

 昨年来の大豆高騰は豆腐メーカーにとり、再び悪夢と映るかもしれない。こうした事態を打開すべく、日本豆腐協会(東京・千代田区)と全国豆腐連合会はこのほど、大豆や食用油などの価格高騰による業界の窮状を訴える文書を流通団体や消費者団体向けに連名で発出した。

 

 日本豆腐協会が今年6月に実施したアンケート調査によると、大豆の値上がり率は2年前と比較して平均15%弱で、加盟する会員企業24社のすべてが値上がりしたと回答したそうだ。両協会は文書で「もはや企業努力だけでは経営維持が困難な状況」と、豆腐業界の置かれている現状に理解を求めたという。

 

 今秋以降、豆腐の値上げを表明するメーカーが相次ぐのは必至とみられているが、豆腐業界を取り巻く経営環境は依然として厳しい。2008年の大豆危機の再来となるのか。財務力のある大手はともかく、零細業者にとって、値上げ分だけで持ちこたえられないかもしれない。都内のある豆腐メーカーは「若い人たちが豆腐づくりに魅力を感じるような産業にしなければならない。構造的な改革が求められる」と強調した。


 

在原次郎

 ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。