→(関連記事)紙と緑のストーリー#1 製紙業界の今 中国に振り回されるはどこも同じ

 

写真 2021年1月、国内主要紙パルプ会社によって構成される事業者団体・日本製紙連合会は「地球温暖化対策 長期ビジョン2050」を発表した。これは素材系業界としては初の脱炭素に向けた宣言となり(当時)、2050年までに紙・板紙の生産活動においてCO2排出ゼロを目指している(2013年度比2,100万トン削減)。

 

 脱炭素への挑戦は困難ながらも避けて通れない今、先陣を切ってカーボンニュートラルを目指すにいたった製紙業界。日本製紙連合会(事務局:中央区銀座)の秋山民夫常務理事(写真左)と木村茂明調査役から、詳しくお話を伺った。

 

 

− 製紙業界のアドバンテージ「黒液」

 これまでも継続的に省エネ・燃料転換を推進してきた製紙業界。2019年時点でも再生可能エネルギー43%・廃棄物系10%と非化石燃料の利用率は高いが、上記宣言の中では、2050年には再エネ74%・廃棄物系9%とし、残りはカーボンニュートラルを前提とした購入電力で100%まかなうことを目標としている。

 

 

↓製紙業のエネルギー構成2019年実績(右)と2050年想定 (出所:日本製紙連合会)

グラフ

 

 

 現在、製造産業の多くの企業が、数字だけが先行するCO2削減目標に向けてどうにか辻褄を合わせねばと、高価な再エネ電力の購入や輸入代替燃料の利用を余儀なくされている。しかし製紙業界においては、エネルギーの約3割超を「黒液」という唯一無二の必殺アイテムでまかなうことが可能だ。

 

 黒液とはバージン木材からパルプを作るときに発生する廃液のこと。木材の50%は繊維でありパルプ原料となるが、残り50%は黒液となる。黒液は重油の1/2〜1/3程度のカロリーを持ち、これを燃焼させた時に出る蒸気を発電に使用することができる。また、圧力の下がった蒸気を紙の乾燥に使うことで無駄なく効率的な利用が行われている。

 

 秋山氏「黒液は製紙産業にしかない強みですね。生産時に出る副産物をエネルギー源にできるのは、今の脱炭素化社会において他業界にはないアドバンテージ。また、建築や家具製品に使った残材や家屋解体時に出る古い木材(木材チップ)も、バイオマス燃料として使用できます。だからこそ私たち製紙業界は、カーボンニュートラルを絵空事ではなく、現実のものとしなければならないと考えています。」

 

 

写真と図

   黒液                           (出所:日本製紙連合会HP)

 

 

― 国内発生の木質バイオマスを使うこと

 また、上のグラフからも分かるように、脱炭素に向けたエネルギー構成として、バイオマス燃料の利用比率拡大が特徴的だ。利用を想定するバイオマスの種類は「木質バイオマス」がメイン。樹木伐採時に打ち落とされた枝・葉、製材工場で出る樹皮やノコ屑、家屋解体時に発生する古材などは、既に年間発生量の9割以上が燃料や製紙原料として再利用されている。それに加え、国内には伐採された木材のうち、未利用のまま林地に残されている木材が年間約2,000万立方メートルも発生していることから、それらをバイオマス燃料として活用していくためのサプライチェーン構築が期待される。

 

 

↓森林に残されたままの未利用材 (出所:北海道森林管理局)

写真 

 

 

 秋山氏「輸入PKS(ヤシ殻燃料)も注目されていますが、安定的な供給への不安や輸送時のCO2排出問題などを考えると、やはり国内での燃料調達が望ましいと考えています。日本は国土の2/3が森林。我々は木材を原料とする産業の代表として、この恵まれた森林資源を上手に扱うことにもっと目を向けていかなければなりません。」

 

 

ー 木材は究極の再生可能資源

 秋山氏はこうも強調する。「昔の公害問題や海外の焼畑ニュースの影響でしょうか。多くの人が木を切ったり紙を使ったりすることに抵抗感を持ってしまいがちですが、木材は再生可能資源です。若い樹木は成長過程でCO2を多く吸収します。しかし、成長が停止した成木は二酸化炭素の吸収量と排出量がほぼ同じになり、そしてそのまま森林の中で朽ちてしまえば、長期間CO2を排出するだけになってしまう。

 だからこそ、森林は適正な管理と適正な循環が必要で、それを繰り返せば間違いなくCO2排出量削減に繋がります。手を加えない『保存すべき森林』はもちろんそのままに、同時に産業用に活用する『生産林』をうまく循環・活性化させる持続可能な森林経営をすることが必要です。」

 

 

図

(出所:林野庁「森林・林業基本計画のポイント」)

 

 

 「樹木は大気の浄化や国土の保全を担う重要な存在。そして木材になれば、繊維部分は紙製品に、黒液は燃料となり、その他端材も余すことなく100%利用され無駄にする部分はありません。他の資源には無いこの稀有な存在にもっと注目してもらいたい。日本は森林整備にコストが掛かりすぎて、その能力を活かし切れていない状況。林業への補助金投入など、国は政策としてもっと本格的に議論してもらいたいですね。」

 

 このインタビューの数日後、林野庁より森林・林業施策の基本的な方針を定める計画が閣議決定された(6月15日)。

 

→(関連記事)林野庁、森林・林業基本計画(更新)を公表

 

 この計画の中では、取材中に秋山氏と木村氏が再三口にした、適正な伐採と更新による適切な森林施業の重要性が繰り返し述べられている。木材供給量は2019年実績の3,100万立方メートルから2030年4,200万立方メートルと35%増を目標とされ、成長の速いエリートツリーの活用や自動操作機械の導入などが盛り込まれた。今後、この計画に基づいて林業家や製材業者への補助金等が方向づけられることから、より効率的かつ収支効果の高い森林整備・保全へ向けた国の大きな支援が期待される。

 

 

表

(出所:林野庁「森林・林業基本計画 関係資料」)

 

 

シリーズ#3へつづく)

 

 

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emi kuroki

 エンタメ業界で20代を過ごした後、30代は踊って暮らし、

 四十路に突入した今はピラティス講師をめざして目下勉強中。

 執筆の得意分野は福祉、地域コミュニティ、まちづくりなど、結構真面目な3児の母。