豪シドニー大学の研究者らは、カナダのトロント大学のチームと共同で、炭素(CO2)を価値ある製品に変えることができる電気化学システムを開発したという。この研究の概要をまとめた論文が、「Science」誌に掲載された。

 

 二酸化炭素の回収・貯蔵は、排出量削減に向けた戦略の一つとして、近年注目を浴びている。しかし、現時点では、回収効率の課題もあり、また、回収された炭素にはほとんど経済的価値がないため、企業がこの技術に投資するインセンティブは低いというのが現状であるようだ。

 

 今回この研究チームが設計したのは、回収したCO2と水を、電気を用いてプラスチックやライクラなどの素材に変換する、高度な電気分解機。このシステム開発により、世界で最も商業的に生産されている有機化合物で、金属加工や医療機器の製造など複数産業で使用されているエチレンなどの高付加価値製品の製造も可能になるという。

 

 シドニー大学化学・バイオ分子工学部のFengwang Li博士によれば、「これまでのシステムでは、アルカリ性または中性の条件で作動していたため、大部分のCO2が無駄になり、代わりに炭酸塩へと変換されていました。それと比べ、今回のシステムでは高い酸性度を利用しているため、CO2を最大70パーセント保持することができたのです」という。従来のシステムでは、利用できる炭素の量は15パーセント以下で、残りは炭酸塩になっていたそう。

 

 トロント大学の公式声明によれば、炭酸塩を抽出してCO2に変換し、再び電解槽に戻すことは技術的には可能だが、エネルギー的にコストがかかるという。研究チームが計算したところ、この場合、システム全体で消費されるエネルギーの半分以上が、このような炭酸塩のリサイクルに費やされるという。

 

 技術的には、触媒の表面から50マイクロメートル以内の小さな層を除いて、全体が酸性の反応器を作成することで、その小さな領域のみ、酸性ではなく弱アルカリ性を保持し、そこでは、CO2が電子によってエチレンに還元されるという仕組みだと説明されている。そして、この反応に正電荷を帯びたイオン(今回の場合カリウム)を加えることより、触媒近くに電界が発生し、CO2が触媒表面に吸着しやすくなり、水素との競争に勝てるようになったとのこと。論文共同執筆者でトロント大学研究者のHaoming Erick Huang氏は、「ある場所では酸性、別の場所ではアルカリ性という反応器を作ることで、理論上の限界を突破したのです」と語る。

 

 Li氏も、「我々の研究は、これまでのアプローチとは異なります。今回の研究では、電気を効率的に使うのか、炭素を効率的に使うのかの一方を選択するのではなく、両方を達成しています」と述べる。このシステムを産業レベルにまで拡大するには、触媒サイズを大きくしたときの安定性や、さらなる省エネの必要性など、乗り越えなければならないハードルがまだ多数あるというが、今回の実験により、将来的にはさらなるリサイクルが可能になるとの期待が高まっているようだ。

 

 

(A.Crnokrak)

 

 

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 豪州シドニー在住。翻訳・執筆のご依頼、シドニーにて簡単な通訳が必要な際などには、是非お声がけください→MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

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