高まる脱炭素化への意識により、市民による気候変動訴訟が相次いでいます。

 

 オランダの裁判所は26日、英・オランダ系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルの現行の温暖化ガス削減目標は不十分であるとし、2030年までに19年比45%削減するよう命じる判決を言い渡しました。

 

 この訴訟は7つの環境保全団体が起こしたもので、市民環境活動家が大手エネルギー企業に戦略変更を迫る初めてのケースとなりました。

 

 同国の最高裁は2019年、政府は気候変動の脅威から国民の生存権を守る義務があるとして、温室効果ガスの削減強化を命じるなど、市民による気候変動訴訟に対し先駆的な判決を次々と下しています。

 

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 また、フランスでは今年2月、くじ引きで選ばれた市民150人から構成される「気候変動市民評議会」がまとめた政策提言が土台となる環境法案が閣議決定されました。

 

写真 ちなみに、この「気候変動対策・レジリエンス強化保安」の主な内容としては

 

  ・製品・サービス消費でのCO2排出量の表示制度「CO2スコア」導入

  ・鉄道で2時間半以内の短距離区間の航空路線運航禁止

  ・ガソリン車の販売を30年以降禁止

 

といった、関連業界が真っ青になる政策措置から

 

  ・スーパーの量り売り販売の面積を全体の20%へ拡大

 

まで、政治家先生だけでは思いつかないだろう、一般市民の日常生活に直結したアイデアが盛り込まれています。

 

 このように、市民自らが声を上げ、参加し、気候変動に対する社会変革を起こそうとする動きが進んでいます。

 

 そんな中、ドイツ政府は5月5日、2030年までのCO2排出量の削減目標を、1990年比65%減とすることを発表しました。それは20年9月に提案した目標値55%から、実に10%の積み上げとなります。加えて、2040年までに88%減の排出削減目標を新設することになりました。

 

 このドイツの大幅な目標値引き上げの背景には、15才から32才までの9人の若者らによる連邦憲法裁判所での訴えがあります。気候変動の厳しい結果と共に生きなくてはならない若い世代が声を上げたのです。

 

 今回の彼らの訴訟活動は、グリーンピース、ジャーマンウォッチ、プロテクト・ザ・プラネットといった環境保全団体がサポートしていますが、原告としては9名の氏名のみが記載されています。

 

 9名の訴えが提出されたのは2020年2月。そして今年4月29日、連邦憲法裁判所は「現行の連邦気候保護法は削減策が不十分で、将来世代の自由の権利を侵害している」との理由から、ドイツの基本法に基づいて一部違憲の判断を下しました。

 

 この判決受けたメルケル首相は「政府内で、憲法裁判所の判決をいかに迅速に実施するかについて議論した」と述べ、2045年までの気候中立達成のためには、「追加的措置を講じて実行する必要がある」との立場を表明。そして判決からわずか2週間後の5月12日、環境省の提案を基に、連邦気候保護法の改正案が閣議決定されました。

 

 

連邦気候保護法の温室効果ガス排出削減目標(1990年比)

表

(自然エネルギー財団HPより)

 

 

 気温が上昇し異常気象が頻発することで、若い世代は将来、住む場所や職業選択の自由といった当たり前の権利をも奪われてしまいます。そして、今回訴えを起こした9名のうち、7名が農業に携わる若者だったことも、大きなインパクトとなりました。

 

 地を耕し、種を撒き、作物を収穫する。

 

 そんな人間が生きていく上で、最も基本的かつ重要な行為すら制限されてしまうかもしれない彼ら。私たちやその親世代が犯した過ちの代償を子どもたちに背負わせないために、E U圏だけでなく日本でも、早急かつ具体的な政策が取られることを強く望みます。

 

 

(一部テキスト・表の転載)

 公益社団法人 自然エネルギー財団

 

 

 

(IRUNIVERSE Emi Kuroki)