コロナショックから1年が経過しようとしているが、いまだ多くの企業が苦境に陥っていることが報じられている。最大の経済的ダメージを受けた産業の一つに、航空業界がある。また、昨年の営業自粛、今年の営業短縮要請が続くなか、日本政府は営業時間短縮に応じた飲食店に対し、協力金や助成金の支払いを行っているが、苦境に陥っているのは飲食店だけではない。公共交通機関のタクシー業界もきわめて厳しい状況にある。筆者はこのほど、都内のタクシー運転手に現状について聞いた。(写真はYahoo画像から引用)

 

顧客激減のタクシー業界に「協力金」等の支援金はない

 

 ある現役のタクシー運転手は「ドル箱だった(新宿の)歌舞伎町周辺も飲食店が全滅なので、それに伴って客がいない。同僚が、休みの日にウーバーイーツでバイトしている話も聞く。ただ、タクシー業界は、一般的に歩合制もあるが、基本的に出勤しているため、客がいなくても出勤しなくてはいけない。自由な時間を得ることができず、結果として副業ができない。また、客がいないから歩合の部分で効率が悪い。これらの要因で給料が激減した」と、悲観的に語った。

 

 この運転手によると、基本的に客単価が高いのは、歌舞伎町などで仕事帰りに飲んだ客で、例えば終電に間に合わなかった客が、自宅までタクシーを頼んだ場合、深夜料金+距離になるので、非常に高単価になりやすいという。

 

 しかし、コロナショックで、最も大打撃を受けた業界である飲食業界とともに、この高単価の客層は既に消えたという。

 

 ちなみに、ある転職サイトによると、タクシー運転手の給与体系は以下の3パターンがあるという。

 

  1. 給料+賞与

  2. 完全歩合

  3. 歩合+賞与

 

 上記の3パターンで、現状のタクシー業界では、③のケースが多いそうだ。


 

 タクシーも公共交通機関に数えられるため、飲食店に支払われている協力金などの助成金などの制度が全くないという話だ。

 

 全日本空輸(ANA)の受け取った金額が多額で知られるようになった雇用調整助成金については触れていないが、周知の通り、この制度は、コロナショックでの損失の一部を保証するという制度なので、全額保証というわけではない。

 

一番先に倒れる物流は「引越し業者」?

 

 物流方面で一番先に経営破綻するのは「引越し業者」ではないかと囁かれているという。

 

 前出のタクシー運転手は「この時期、転勤や異動で引っ越しシーズンのはずだがまったく動きがないと聞く。昨今のテレワークの普及や不況でわざわざ転勤させる余力がない企業が多く、それに伴って、引っ越し人口が大幅に減少していることにある」と語る。

 

 ある記事によると、引越し料金は、①基本料金 ②実費 ③付帯サービスの3段階で決まるという。

 

  ここで言う実費は、例えば、県を跨いだ際に高速道路を使った場合、その料金などを指す。また、付帯サービスについてはエアコン取り付けや、洗濯機の取り付け費用などがそれに相当する。

 

 筆者の実体験を話すと、いまから6年前の2015年に千葉県某所から東京に引っ越した際にかかった費用は大体7万円だった。当時はドライバー不足からなる運送運賃の高騰などは表面化していないかった。

 

 その後、2019年に都内23区内で引っ越し。この頃は、すでに引越し料金の高騰が囁かれていた時期で、金額は5万円台後半だった。100キロを超える千葉県から東京の引っ越しが7万円に対し、50キロ圏内での引っ越しが5万円台後半。つまり、料金高騰が現実味を帯びていたことが分かるだろう。

 

 コロナショック以来、道路で引越し業者と判別できるトラックや作業員を見かけることはほとんどなくなったように感じる。

 

 筆者が取材したタクシー運転手は、給料はもらえているが減っているという。この減額分を、自身が所有しているアニメやゲームのグッズを売却して赤字を補てんしているそうだ。以前は、客の入りが多く、給料もそれなりにもらっていたので、好きなだけグッズを買っていたが「それを売却し、赤字を補てんすることになるとは考えもしなかった」(同)。

 

 余談であるが、昨年から続くコロナショックで筆者が気付いたことは、秋葉原にある、アニメグッズを取り扱う店の品揃えが、以前とは比べものにならないくらい良質となったことである。つまり、コレクターたちが、仕事が激減するなか、手持ちの資金を増やすために、自らのコレクションを泣く泣く売却したことは想像に難しくない。

 

 歌舞伎町のみならず、訪日外国人観光客の需要も消滅した昨今、このタクシー運転手のように危機感を募らせる人たちが少なくないとの印象を抱いた。

 

金剛たけし ジャーナリスト