今年5月に実施された英国北部のスコットランド議会選挙で英国からの分離独立を志向する与党スコットランド民族党(SNP)と緑の党が議席の過半数を占め、独立に向けた機運が再燃し始めた。独立の可能性や展望についてエネルギーの視点から考えてみた。(写真はYahoo画像から引用)

 

 今回のスコットランド議会選では、与党SNPが全129議席のうち、64議席を獲得した。緑の党は8議席を確保した。両党で過半数を得た独立派は今後、英国からの分離独立を問う住民投票に向けた手続きに入るとみられるが、その道は平坦ではない。時計の針を前回の住民投票時まで戻してみよう。

 

 2014年9月18日にスコットランドで実施された、英国からの独立の是非を問う住民投票の結果、独立反対派が賛成派の票数を上回り、約300年の歴史を有する連合王国の分裂を回避した。独立賛成派の夢は幻と消えたかと思われたが、SNPによる政権運営が続くなか、SNPによる独立運動は継続している。  

 

 住民投票の実施に先立つ2014年9月初め、英スコットランド・アバディーン大学のアレックス・ケンプ教授(専門分野はエネルギー経済)が研究論文を公表し、成熟期を過ぎたとされる北海油田について「2050年以降も採掘可能」との見解を示した。

 

 サイト「エナジー・ボイス」(2014年9月10日付)などによると、ケンプ教授は枯渇が懸念される北海油田で、2045年までに約100の新規油田の発見があると予測。この見通しには、スコットランド西方の沖合に位置するクレア・フィールドも含まれるとした。

 

 すでに発見された125の油田のうち、当時の原油価格水準では採算に合わないため、今世紀半ばまでにほぼ半数が開発されないと主張。北海ブレント原油の価格水準を1バレル=90ドルに設定すると、商業生産に結びつくかが不透明であると付け加えた。

 

 ケンプ教授の見立てでは、2050年までに商業ベースに乗ると見込める油田が、開発中(当時)の25油田にとどまらず、開発のめどが立っていない147油田も含まれるとした。掘削などでの技術力向上が不可欠とした上で、原油価格が高騰すれば、採算ベースで十分にペイすると強調した。

 

 他方、スコットランド自治政府で現在もエネルギー部門などを担当するファーガス・ユーイング大臣は2013年後半、英国を除くスコットランドの石油・天然ガス輸出量が12年に300億ポンドに達したと表明した。スコットランドが、海外石油市場で今後、長期にわたり、石油ビジネスに貢献する重要なときを迎えたと付け加えた。

 

 ケンプ教授らの見解は、スコットランドが英国から独立してもエネルギー資源が豊富なので十分な財源が得られるとされたが、エネルギー専門家の見方はいまも否定的である。当時と現在では、英国の置かれた政治的、経済的な状況が大きく様変わりしているからだ。

 

 まず、2014年当時は英国はまだ欧州連合(EU)の加盟国であり、完全離脱していなかった。また、現在のように新型コロナウイルスの感染拡大で経済が大きく混乱するという状況でもなかった。

 

 2016年に実施されたEU離脱の是非を問う英国の国民投票では、英国全体で離脱賛成が半数を超えた。その後、EU離脱が現実となったことは周知の通りだ。ただ、スコットランドでは当時、62%が残留を支持したこともあり、今回の議会選の結果は民意の表れとみる向きもある。

 

 化石燃料の開発に対する逆風が強まるなか、国際社会は脱炭素に向けて完全にシフトした。2050年のカーボンニュートラルはいまや、国際公約となった。油田やガス田開発は商業化まで数十年単位の時間を有するということもあり、仮にスコットランドが独立を果たし、北海油田からの収入を当てにするとしても「その頃は石油が必要とされない時代に様変わりしている可能性が大」(大手商社の関係者)で、中長期的にみてもエネルギー以外の財源を見い出すことができるかを疑問視する声が強い。

 

 そもそも枯渇論がしばしば話題に上る北海油田のエネルギー資源に依存するだけでは危ういとの警戒論も目立つ。再生可能エネルギーを主要電源とする政策がスコットランド単体でなし得ないとの見方もある。

 

 いずれにせよ、エネルギーという視点だけからみても、人口546万人(2019年ベース)のスコットランドにとり、完全独立まで茨の道が続くとみてよさそうだ。スコットランドはEU加盟、ユーロ導入を目指すとみられるが、英国独立からEU加盟までのプロセスで通貨システムをどうするのか、新通貨を独自に発行するかなど、解決すべき課題が山積する。

 

 議会選で勝利したSNPは今後、独立の是非を問う住民投票を新型コロナウイルスが収束するタイミングを見計らって実施する方向で動くだろう。同党のニコラ・スタージョン党首は議会選後のインタビューで住民投票の実施に自信を示した。

 

 一方、英政府のボリス・ジョンソン首相はスコットランド独立に向けた住民投票の実施を何とか阻止しようと躍起だ。独立論争は始まったばかりで、英国のEUからの離脱プロセス同様、これから紆余曲折が予想される。

 

 

在原次郎

 ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。