去る4月27日に、一般社団法人サスティナビリティ技術設計機構が主催するサーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会が、オンラインで設立3周年記念シンポジウムを開催しました。そこでサーキュラーエコノミーに関する最新の発表がありましたので、今日はかいつまんでその中身を報告します。

 

 先ず冒頭、研究会を主宰されている機構の原田幸明先生から「人間経済圏が地球生態圏を超えた時代の人類の責任として」と題して、未曽有の危機を作り出してしまった経済を変革するために、「Retained Valueを引き出して、モノを廻してゆく」サーキュラー・エコノミーの重要性について、また「売る経済から使う経済へ」のシフトについて「人の輪と、モノの環で、地球に和(やすらぎ)を」目指すべきとの指摘がありました。四半世紀以上にわたる知見の蓄積をまとめられた厚みのあるプレゼンでした。

 

 

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キーワードは「リソーシング」

 次に日本生産性本部・エコマネジメントセンター長の喜多川和典さんから欧州の第2次サーキュラーエコノミーアクションプラン(CE AP 2.0)について詳細な解説をいただきました。一言でいえば「消費者ドリブンのサーキュラー・エコノミー」を推進する、ということなのですが、これは政策というとつい産業主体にモノを考えがちな日本のアプローチとはだいぶ角度が違います。

 

 EUでも確かに、タクソノミー規則に謳われているように「産業をどうするか」という課題は重要なのですが、上位政策において「すなわちそれは消費者主体である」と規定されている点において、CO2の46%削減をどう受け止めて良いか判断しかねている日本とはだいぶ違います。

 

 また、欧州の新しい産業戦略はツイントランジション、すなわちエコロジーとDXが相乗効果をもたらすことで成長につなげるというものだそうですが、喜多川さんによると「サーキュラー・エコノミーは掛け算」なのだそうです。事例として紹介されたのがEU電池指令でしたが、セカンドライフリユースの義務化など、その中で求められている徹底的なリユース(安易にリサイクルしない)には、単にサーキュラー・エコノミーを具現化するに止まらないリソーシングの追求という目標がしっかりと織り込まれている、と感じました。

 

 今ひとつの事例として紹介いただいた仏・ルノーの新工場”Re-Factory”というコンセプトです。バッテリーの二次使用を進めるRe-Energy、資源のRe-Cycle、中古車修理のRe-Trofit、再生材を3Dプリンターで活用するRe-Startを軸に、各工程がそれぞれお互いにリソーシングしあうという、サーキュラーなバリューチェーンを作り上げてゆくというモデルは強烈な先進性を感じさせるものでした。

 

 他にもテスコ(英)とSABIC(サウジアラビア)によるプラスチック容器リサイクルの事例やレンダガー(デンマーク)による建物のアップサイクル事業の事例など、幅広い分野でリソーシングの流れが強まっているとのご報告は、サーキュラー・エコノミーが持つ大きな可能性を感じさせてくれるものでした。

 

 

成長戦略としてのサーキュラー・エコノミー

 次に、(一社)サーキュラーエコノミー・ジャパン代表の中石和良さんから、欧州を中心として急速に普及するサーキュラー・エコノミーを企業の成長戦略として捉え、さらに欧州の長期戦略を読み解いた分析のご報告がありました。これまでの動脈・静脈という捉え方から、ファッション・コスメなどをも含む幅広いビジネスでサーキュラー・エコノミーが成長戦略として取り入れられている、というお話です。

 

 中石さんによると、サスティナビリティを巡る世界のトレンドは、金融界の後押しも手伝って環境・経済・社会における人間のウェル・ビーイングを志向する方向に向かっており、具体的には以下の4つの指標①プラネタリー・バウンダリー、②経済と環境のデカップリング、③SDGs、④パリ協定を目指しているのだそうです。

 

 この達成のために有効なのがサーキュラー・エコノミーであり、特にエレン・マッカーサー財団が提唱する三原則、すなわち①無駄を出さない、②使い続ける、③自然システムを再生するという考え方が重要である、と結論付けられています。

 

 アクセンチュアが提案するように、この考え方を具体化するためのビジネスモデルが①サプライチェーン管理、②シェアリングエコノミー、③サービサイジング、④長寿命化、⑤リサイクルによって構成されるところ、中石さんによるとその全体をデザインする「プロダクトのサーキュラーデザイン」が6つ目のファクターとして最も重要なのではないか、とのお話でした。これらをDXにより水平に融合させることで産業のエコシステムが変化する、その中でプロダクトは圧倒的にコモディティ化する、という変化を鋭く予測されていました。

 

 中石さんが背景として指摘されたのが、気候変動対策を考えたときの産業のあり方です。温室効果ガスの排出源として、欧州では第一次+第二次産業で約45%を占めるのだそうですが、サーキュラー・エコノミーを推進することで①リスクの軽減、②ブランドの強化、③サプライチェーン最適化によるコスト削減までは実現できるとして、それを④収益源とするところまで高めようとする取り組みが今なされつつある、ということなのです。 

 

 そのために各産業界及び企業では次々と新しい施策が導入されており、喜多川さんからご報告のあった第2次サーキュラーエコノミー・アクションプランがバックボーンになっているという説明でした。

 

 自動車業界ではCASEとMaaSの組み合わせ、飛行機や家電、住宅機器でもPaaSの取り組みが広がり、ビジネスのあり方そのものが大きく変化してきている、その背景として中石さんが指摘されたのが、「グリーン・倫理・正義」を理念として主張することで欧州発のパラダイムによる世界の実現を目指すという考え方でした。情報(アメリカ・中国)でも工業(中国)でも、ましてや資源(産油国・途上国)でもない、理念(欧州)こそが世界を動かす時代を目指して、欧州はその戦略を着々と進めているというのです。さて、日本はどうするのでしょうか。

 

 

そして日本は

 続いて、経団連環境エネルギー本部 統括主幹の吉田一雄さんから、「循環経済パートナーシップ」についてのご紹介がありました。これは経団連と経済産業省・環境省による新しい枠組みで、「脱炭素・分散型社会・サーキュラーエコノミー」に関する官民連携強化のプラットフォームであるということです。この取り組みはJapan for Circular Economyを略してJ4CE(ジェイフォースと読む)と呼ばれるそうです。

 

 吉田さんによると、このJ4CEを通じて関係省庁および経団連の連携を深め、日本企業の先進的取組事例の収集及び情報発信、循環経済に関する動向の官民共有やネットワーク形成、循環経済を促進するための対話の場を設けることにより、循環経済分野での日本企業の競争力向上に貢献することを目指しているとのことで、具体的には会員企業による取り組み事例の蓄積から進めている、とのご報告がありました。今後、各種の国際会議などを通じてこれらの事例を発信してゆきたい、また情報共有のためのメールニュースの発行や様々な対話の場を設けてゆきたいとのご発言もありました。

 

 さらに産業技術環境局資源循環経済課の末藤尚希さんから循環経済ビジョン2020およびサーキュラー・エコノミー投資ガイダンスについてご紹介がありました。特にガイダンスについて、①企業の価値観、②ビジネスモデル、③リスクと機会、④戦略、⑤指標と目標、⑥ガバナンスの6つのポイントを重視し、中長期的な視点から評価することが大切であるとの考え方と、それを進めてゆくためのPDCAサイクルについてご説明がありました。特にサーキュラー・エコノミーに関わる取り組みを中長期的な新市場の創出・獲得につなげ、企業価値の向上を目指すという考え方は、政策上でも明快にサーキュラー・エコノミーの重要性を示したものとして評価できると思います。

 

 最後に環境省環境再生・資源循環局総務課循環型社会推進室の田邉 達毅さんから、循環経済ラウンドテーブルや循環経済及び資源効率性に関するグローバルアライアンス、アジア太平洋地域3R:循環経済推進フォーラムなど海外に向けた取り組みと、プラスチック資源循環戦略およびプラスチック新法に関わるご報告がありました。

 

 日本の取り組みを海外へどのように発信・展開してゆくか、さらにその最先端で注目されるプラスチックの資源循環がどのように進むのか、きわめて注目度の高い内容です(今後機会があればぜひ改めて取材したいと感じております)。

 

 今回も研究会のシンポジウムとしては大変中身の濃いもので、あっという間に時間が過ぎたと感じました。これまでサーキュラー・エコノミーに関する情報ハブとして同研究会が果たしてきた役割は今後ともさらに重要になることが強く感じられました。

 

 

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西田 純(環境戦略コンサルタント)

 国連工業開発機関(UNIDO)に16年勤務の後、2008年にコンサルタントとして独立。サーキュラーエコノミーをテーマに企業の事例を研究している。サーキュラーエコノミー・広域マルチバリュー循環研究会会員、サーキュラーエコノミー・ジャパン会員

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