欧州のリサイクル業者を束ねる業界団体、欧州電池リサイクル協会 (The European Battery Recycling Association: EBRA)は、ベルギーに拠点を置き、Umicore社や Saft社などの大手を会員に持つ。協会の事務総長Alain VASSART博士は、欧州委員会が関わるETIP *(Batteries Europe)のワーキンググループで共同議長を務めほか、ICMが主催する国際バッテリーリサイクル会議(ICBR)では、そステアリングコミッティーのメンバーでもあり、欧州電池リサイクル業界の第一人者である。

* The European Technology & Innovation Platform (ETIP) on batteries (Batteries Europe) 

 

 今回、MIRUでは、欧州におけるリチウムイオン電池のリサイクル状況や、現在最終調整が行われている欧州新電池規則がリサイクル業界へもたらす影響について、VASSART博士に話を聞いた。欧州電池リサイクル協会は2月末、新電池規則提案書へのフィードバックとして、会員の声を代表し、欧州委員会へ向けたポジションペーパーを発表している。

 

 

Q: 欧州におけるリチウムイオン電池のリサイクルシステムについて、現状を教えて下さい。

A: 現在、電池指令の改定が行われているため、今後変更される可能性がありますが、ここでは、現状について話します。まずポータブル電池の回収については、EU各国に少なくとも一件、あるいは数件(国によって異なる)の規制(拡大生産者責任、以下EPR)によって定められた回収システムが設置されています。この回収組織は、ポータブルおよび民生用の全種類の電池を回収しています。電池を回収ポイントへ持ち込む消費者には、選別の義務はないからです。回収電池は、選別センターへ持ち込まれ、電池に含まれる化学物質によって仕分けされます。その後、それぞれの化学物質に特化したリサイクラーへ送られ、処理されます。

 

 産業用、車載用電池に関しては、エンドユーザーから直接回収されるケースが多く、通常ポータブル電池の回収スキームとは別になっています。一例としてトヨタのEVとしましょう。同社はリサイクラーと契約し、エンドユーザー(自動車ディーラーあるいは使用済み自動車解体業者)から電池を回収し、リサイクラーへ送るという具合です。まず、自動車解体業者が、使用済みになった電池(EV用)を車から取り出し、それをトヨタが契約している電池リサイクラーへ送り、その費用はトヨタが払います。

 

 ただ現在は、産業用リチウムイオン電池には、電動自転車やスクーターなどに搭載される小型のものもあり、これらは、EPR下の回収スキームによりが回収されるケースがほとんどです。

 

 リサイクル処理については、ポータブル電池と産業用電池には違いがあります。ポータブルは、シングルセル、または数個のセルが入っているパックです。これはそのままリサイクル処理が可能です。EV用などの大型電池については、そのままリサイクル処理するには大きすぎます。従って、リサイクル処理前に、解体処理が必要になります。電池ボックスの中には、複数のセル、ケーブル、プラスチック、バッテリー管理システムなどの電子機器、クーリングシステム、外部の鋳造などがあり、これらの部品が選別されます。セルはリチウムイオン電池のリサイクラーで処理されますが、ケーブル、アルミ、プラスチックなどその他の部品については、それぞれの専門のリサイクラーに送られることになります。

 

 この解体については、既存の解体業者や、新たに市場に参入する業者によって行われます。また、必ずしもリサイクル処理を行う場所で解体を行うと言うわけではない。例えばUmicoreのように、解体作業はドイツで行い、リサイクル処理はベルギーで行っている業者もあります。また、解体業者の中には、セカンドライフ活用が可能かどうか、電池の診断に対応するものも出始めています。今の傾向として、このセクターの市場参入者が増加しています。またEV電池の再構築を専門にやる業者も出てきています。

 

 

Q: 現行の電池指令で定められている拡大生産者責任( EPRスキーム)について、EU域外の生産者については、どのように適用されるのでしょうか。

A: 例えば、日本のパナソニックを例に取りましょう。同社は、日本で電池を製造し、欧州市場で販売しています。この場合、電池の輸入業者に対し、EPRスキーム責任が生じます。従って、この輸入業者がEU電池指令に従って、EPRスキームによって設立された生産者責任組織(以下PRO)の会員となり(会費制)、電池の回収・リサイクル処理を委託します。

 

 

Q: 「フリーライダー」がよく問題とされていますが、これは海外の生産者でしょうか?

A:様々なケースがありますが、欧州における状況を一例として挙げます。

 

 欧州域外からオンラインで電池を購入し、ベルギーへ配送するとします。欧州域外の販売者が欧州に事務所を構えていない場合は、これを郵送で受け取ることになります。その場合、電池の販売者が、欧州市場では義務とされているEPRにかかる料金を支払っているがどうか、うやむやになっているところがあります。

 

 また、電池を搭載した電化製品を個人輸入する場合も同様に「フリーライダー」となります。ただし、今行われている規制の改定により、このようなケースにも料金の支払いが義務化され、税関がこの管理を行います。欧州域内においても、製品を輸入した場合、現行規制では、EPR義務がどの場所で生じるのか明確ではなかったのですが、新規制では、これを「輸入された場所」と明確にしています。

 

 

Q: リチウムイオン電池のリサイクルコストについて、現在、EPRスキームを通じて全てがカバーされているのでしょうか。

A: ほとんどの場合、使用済み電池の管理コストは、これらの電池リサイクル原料を販売して得られる収入を上回ります。EU規制は、電池を欧州市場で出す業者へ、差額を支払うことを義務付けられています。EPR スキームは、この差額を支払うシステムです。ポータブル電池の例では、PROがリサイクル業者を対象に、一年から数年の契約を入札で行っています。産業用電池についても同様です。

 

 

Q: 欧州におけるリチウムイオン電池のリサイクル状況について教えてください。(処理能力、技術、利益性)

A: 現在はEV電池のほとんどがまだ路上です。リサイクラーが受け取るものは、破損や事故車によるものです。現在の欧州におけるリチウムイオン電池のリサイクル能力については、問題はありません。ポータブル、産業用とも、回収されたものはリサイクルされています。ただし、今後、リサイクルの必要な使用済みEV用電池が大量に発生すれば(将来使用済みEVの数が大幅に上昇するため)、処理能力を引き上げるための投資が必要です。

 

 リチウムイオン電池については、現行の指令では、回収されたリチウムイオン電池重量)の50%をリサイクルすることが義務付けられています。しかし、リサイクルする原料のタイプについては、まだ定められていません。コバルトやニッケルなどの有価原料はいづれにしてもリサイクルされます。リチウムに関しては、リサイクルすること自体は問題ないのですが、コストがかかり利益性がないため、今日ではほとんどリサイクルされていない状況です。

 

 今後は、新規制の施行により、状況が変わる可能性があります。新法案では、リサイクル原料に関する新義務の設置を行おうとしています。まず、全体のリサイクル率が、50%から60%に、その後さらに70%に引き上げられます。加えて、ニッケル、リチウム、コバルト、カッパーについて、原料回収ターゲットの義務化も行われます。従って、将来的には、リチウムのリサイクルも義務化されることになります。また今日のリサイクル処理技術は、必ずしもリチウム処理に対応していないため、今後リチウム処理に対応できるよう変更が必要になるでしょう。また、新しい電池生産への再生材の使用も義務化される予定なので、リサイクラーはそれに応じた処理方法を採用する必要があります。

 

 リサイクラーの課題は、今後増える使用済みEV電池のリサイクル需要へ対応するため、リサイクル能力を大幅に引き上げる必要があることと、また規制に対応するリサイクル処理技術に対応していく必要があることです。既存のリサイクラーが処理能力を引き上げようとしている一方で、多数の市場参入も見られます。全体的にはまだ産業規模に達しておらず、開発段階やパイロット規模がほとんどです。需要が急増する時期までに準備をしているという状況です。

 

 利益性については、リチウムは採算がとれないため、リサイクル費用の一部はEPRスキームまたは自動車メーカーにより支払われています。将来はというと、もちろん、リサイクルによる収入で全てが賄えるのが理想です。しかしながら、現状は「未解決」というところです。様々な要素があり、状況は複雑です。この先、電池の量が増えれば、リサイクルコストは下がるでしょう。だが、新規制への対応で、リサイクル施設への投資が必要となります。従って、電池の回収原料から得られる収入で、使用済み電池の管理費用全てを賄えるのかどうかについては、確信はありません。

 

 

Q: 欧州新電池規則が施行となった場合、リサイクル業界への最も大きなインパクトは何でしょうか。

A: リサイクラーにとっての最も大きなインパクトは、リサイクルターゲットに関わる新措置です。前に述べたように、電池全体のリサイクル率は最終的に70%に引き上げられます。回収原料と再生材含有ターゲットも同様です。2つめは、安全性の問題があります。リチウムイオン電池の扱いには危険が伴うこともあり、多角的な安全対策が必要となります。使用済み電池が増えれば、安全性への影響も高くなるのです。これにはコストも伴います。これはリサイクルのバリューチェーン全体に関わる問題です。

 

 リサイクル率の話に戻ると、これらのターゲットが設置される際、我々に必要なのはフェアな競争環境です。規制には皆が従う必要があります。リサイクラーの中には、リサイクルターゲットを間違って解釈する者があるため、この状況を改善しなければならない。欧州市場における全てのプレーヤーが規制に従わなければならない。これは我々リサイクラーにとっては死活問題です。EUは、監視体制も強化する必要があります。

 

 また、新規則は、海外の電池メーカーへも大きなインパクトをもたらすものです。

 

 「CE マーキング」というシステムがあり、電池メーカーはこれに対応することが義務化されます。この承認システムの条件を満たさない場合、欧州市場で製品を販売することができません。例えば、安全性などです。中国のメーカーの中には、この新措置内容へ対応しなければ、欧州では販売できないメーカーが出てきます。また、電池の生産におけるカーボンフットプリント情報の明示が必要となり、メーカーはこれにも対応しなければなりません。新規制は、生産者にもリサイクラーにも大きく影響すると言えます。

 

 リサイクラーにとっては、ポジティブな面もあります。電池の成分について詳細な情報の開示が義務付けられたことです。これまでは、リサイクラーにとって、電池はいわゆる「ブラックボックス」でした。蓋を開けてみなければ、中がどうなっているかわからない。しかし、今後、その含有物質についての詳しい情報が前もって分かれば、リサイクルがより容易になるでしょう。

 

→ 欧州電池リサイクル協会:https://www.ebra-recycling.org

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

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SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

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