10年目に突入したシリア内戦。アサド政権対反体制派という構図はもはや有名無実となり、トルコ陣営対反トルコ陣営という多国籍紛争の様相を呈している。現在、北シリアの各地はトルコ軍の占領下にある。反体制派勢力の多くはこれまで、トルコ軍の傭兵となり、占領維持のために任務を遂行してきた。トルコ傘下勢力を束ねたプラットフォームの一つに「国民軍」がある。最近、国民軍戦闘員への給料支払いが滞っており、傭兵たちの間でトルコに対する不満が爆発しているそうだ。シリア人権監視団が国民軍関係者から得た情報によると、給与が軍服調達費に充てられているという。(写真はYahoo画像から引用)

 

 トルコはエルドアン政権と大統領に近いイスラム主義者サークルの利益のため、情報機関を通じて反アサド派のテロ支援を行ってきた。MiTによるイスラム主義者への武器支援は6年前大きな問題となった。MiTの「汚い戦争」をすっぱ抜いたリベラル系新聞『共和国』の元編集長ジャン・ドゥンダル氏は、国家機密漏洩の罪で5年の刑が言い渡された。問題視された支援先は自由人シリア運動といった「穏健」な勢力であったが、周知のようにイスラム国への支援疑惑も濃厚だ。いまでは反体制派勢力を公然と傭兵として雇うトルコ軍だが、金払い一つとっても未だに占領地域の人心掌握には至らないということが明らかだ。

 

 傭兵たちに対する待遇の悪化によって、トルコ占領下の地域住民の人権も脅かされる懸念が広がる。2018年にトルコ軍がシリア北西部のアフリンを占領した際、傭兵たちが爆撃で破壊された商店から白昼堂々と商品を運び出す光景がAFP通信によって世界に配信された。アフリンでは身代金目的の誘拐が日常茶飯事となっているという。傭兵たちによる傍若無人の振舞いの背後に、トルコ当局によるクルド人敵視に基づく暗黙の了解があるのは言うまでもない。より重要なのは、トルコ軍の一員として軍事行動に従事しながらトルコ軍兵士と同じ待遇を得られないことだ。傭兵たちは自ら生活の糧を得なければならず、略奪や身代金目当ての誘拐、恐喝といった蛮行に及ぶ。クルド人をはじめとする現地住民に対する暴力行為を国際社会は監視する必要がある。

 

 トルコ軍はアフリンを占領した2018年の11月、傭兵の無法ぶりに由来する無秩序を糺すため、武力で東方の自由民など問題行動の多い武装勢力を排除した。しかし、秩序回復は一時的なものに過ぎなかった。その後、東方の自由民がアフリンに帰還したため、トルコ軍の支配による秩序は確立されていないのが実情だ。トルコ軍は2019年10月からユーフラテス川東部にも侵攻を開始し、セレカニエ(ラスルアイン)、ギレスピ(タルアブヤド)を含む地域を支配下に置いた。クルド勢力が秩序を確立した、これらの地域は傭兵たちによって秩序を奪われた。トルコ軍による支配がシリア国内の安定化に寄与しない根源的な理由である。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。2020年7月、日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語も学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指す。