ロジウムのスポット価格が3月23日、2万9790ドルの最高値を更新するなど、上昇基調を続けている。その後は3万ドルの大台を前にして高値警戒から上げ一服の様相をみせているが、年末時点の1万6990ドルからみると、大幅高の水準に変わりはない。

 

 中国では「国家第6段階機動車排ガス標準」(国6)が実施され、自動車用触媒の使用拡大・強化が明記されている。自国のエネルギー供給がなお、石炭中心である状況を踏まえて、2019年秋に電気自動車一辺倒の自動車計画を見直し、電気自動車を5割、ガソリン車などの排ガス規制を強化した自動車を5割に政策を大きく転換してから、自動車用触媒の重要性・必要性が急拡大し、それ以降、ロジウムとパラジウムの上昇が続いている。

 

 ロジウムは触媒効率が高いため、ここ数年でその需要性が一段と増している。パラジウムはもともと中国での自動車用触媒の中心であり、さらなる中国での需要拡大は避けられない状況にある。

 

 先日まで開催されていた中国・全人代において、2030年の温暖化ガス排出削減目標に取り組むことが改めて表明され、二酸化炭素排出量を18%引き下げることも明記された。その一方で、自動車などの高額消費の安定的増加を促すとしており、全人代後に、ロジウム・パラジウムともに上昇に弾みが付いたとも考えられる。

 

 ところで、鉄鋼新聞が3月12日に報じた記事によると(以下は抜粋)、「京都大学の北川宏教授らの研究グループは、自動車排ガス浄化触媒に対して最も高い性能を有するロジウムを凌駕する高耐久な多元素ナノ合金触媒の開発に成功したと発表した。ロジウムよりも資源量が豊富で安価なパラジウムとルテニウムに第3の元素としてイリジウムを加えた合金触媒がロジウムよりも高活性かつ高耐久制であることを発見した。」としている。そして、「1ナノメートル級のナノ合金の安定量産化に成功している。現在は複数の自動車・自動二輪メーカーとの実機での耐久試験などの共同研究を進めている。」と報じている。

 

 ロジウムの中国での急速な需要拡大による供給不足が指摘されている中、ロジウム価格は2019年末と比較してほぼ4倍の水準に高騰している。このため、米国や中国で自動車用触媒として一般的なパラジウムをベースにしたナノ合金触媒の開発が進んでいることも当然で、他にも今後、こうした研究・開発が促される可能性も十分考えられる。

 

 1980年代後半に、フォードが自動車用触媒として価格が上昇していた白金の使用を取り止め、パラジウムにシフトするとの発表した時、いわゆるフォードショックといわれる白金相場の急落がみられた。しかしながら、今回のこの発表にロジウム相場は全く動意を示さず、一段の上昇を演じている。結果からいえば、実用化にはまだ時間がかかるとみられること、目先の供給不安の解消にはつながらないと市場ではみているようだ。

 

 フォードショック以降、自動車用触媒に対する代替の発表は各方面から相次いでいるが、後述するリサイクルの確立が足かせになって、実用化に至らなかったケースがほとんどである。

 

 フォードショックを境に、米国では自動車用触媒の中心がパラジウムとなり、パラジウムのリサイクルによる二次供給も確立している。2018年以降、パラジウム相場が白金相場を上回り、現在はパラジウムが白金の2倍以上の相場水準にあるが、米国ではリサイクルが確立されていること、微量はあるが、米国でもパラジウムが生産されることもあり、自動車用触媒をパラジウムから白金にシフトする動きはみられない。

 

 日本では1980年代の白金の宝飾品需要の急拡大もあり、白金の流通が盛んだったことから、白金中心のリサイクルが確立され、その後の白金の上昇相場でも白金を中心とした自動車用触媒に変化はなく、現在に至っている。

 

 今回のパラジウムを使用する多元素ナノ合金触媒は、まさにロジウムの需要が盛んである中国でのメリットがかなり大きい。米国同様、中国ではパラジウムが自動車用触媒の中心であり、パラジウムの供給不安はロジウムほどではない。触媒効率の観点からロジウムの需要が拡大しているものの、今後数年後にはロジウムの供給不足の水準が年間の供給量の半分近くになるとの指摘もあるだけに、さらなるロジウム相場の価格上昇は避けられないとみられている。

 

 ロジウムを使用しない自動車用触媒の最大のメリットは、自動車生産や販売のコスト削減に寄与することである。一方では、今後ともパラジウムは自動車用触媒にとっては欠かせない貴金属といえる。

 

 中国でのメリットはかなり高いものの、実用化に至っても技術移転などの問題も避けられず、市場では、まだまだロジウムの優位性は揺るがないとの見方もある。

 

 いずれにせよ、当面、中国での自動車用触媒の需要は旺盛とみられるだけに、ロジウム、そしてパラジウムの上昇は続くと考えられる。

 

 

齊藤和彦(さいとう・かずひこ)

 フジトミ 情報サービス室・チーフアナリスト