フィンランドに本拠を置く電力会社大手Fortum社は、水力、原子力から、太陽光や風力発電も行い世界10カ国に展開する一方、電池やプラスチックなど、リサイクルも多角的に手がけている。

 

 同社は、2020年1月、国内のスタートアップで、リチウムイオン電池に含まれる有価金属のリサイクルを専門とするCrisolteQ社を買収し、電池リサイクル部門の強化を図っている。

 

 CrisolteQ社のユニークな湿式処理技術は、リチウムイオン電池からの原料回収率を80%以上(現在の平均的な回収率は50%)へ引き上げることが可能だ。この精製技術で、ニッケル、コバルト、マンガンの有価金属が回収され、回収原料は再生材として新しい電池の生産に使用されている。同時に、湿式処理過程における低炭素排出も実現する。

 

 現在Fortum社は、EUが推進しているEU域内電池バリューチェーンの構築プロジェクトの一つ、電池におけるIPCEI *にも参加している。

*IPCEI:「欧州の共通利益に適合する重要プロジェクト」欧州が推進する産業プロジェクトの一つで電池におけるプロジェクトが既に二件進行中である。

 

 MIRUでは、今回このFortum 社のリサイクル・廃棄物セクターの電池部門を率いるTero Holländer氏へ取材、同社のEUプロジェクト、リチウムイオン電池のリサイクルから、現在改定が行われている電池規制がもたらす影響まで話を聞いた。

 

 

Q: まず、御社が参加されているEUの域内電池生産推進プロジェクトIPCEIについて教えてください。

A: 2021年1月に欧州委員会が承認したIPCEI 2への同社の参加プロジェクトは、電池のセカンドライフ活用に関するものです。革新的なこのプロジェクトは、資源およびエネルギー効率にける付加価値を高めるため、電池の使用を最適化し、使用済み電池や電池生産時に発生する廃棄物における効率的なリサイクル実現する「ソリューション」の開発を行うものです。

 

 この「ソリューション」は、一次原料の使用をできる限り削減し、二次原料の量を増やすため、使用済み電池からの回収原料を電池のバリューチェーンに戻す「エコシステム」を欧州に構築するものです。

 

 

Q: 御社の現在のリチウムイオン電池リサイクル事業についてお聞かせください。

A: 当社は、すでにかなりの処理能力を持っており、今後もこれを確実に引き上げることが可能です。現在、フィンランドのHarjavaltaに新しい電池リサイクル施設の建設を検討しています。この場所に施設を建設するにあたり、環境における影響評価を行いました。現在、建築許可を申請しているところです。許可申請時には、まず稼働第一段階で、年間3万メタリックトン、その後第二段階として、5万メタリックトンの処理能力を提示しています。

 

 

Q: 現在欧州におけるリチウムイオン電池のリサイクル率はまだ低く、コストや利益性が課題だと言われています。御社のリチウムイオン電池の原料回収率80%以上というソリューションでは、これらの課題は解決されているのでしょうか。

A: 現在、電池金属処理を行っているリサイクラーの多くは、製錬によるものです。この処理法では、炭素排出量も高く、回収される金属も少ない。使用済みリチウム電池を、より効率的かつ安全に、炭素排出を最低限に抑えてリサイクルするため、当社では、機械と湿式の両方を使用する処理法を採用しています。この処理法では、電池のブラックマスに含まれる(活物質)有価原料については、95%という非常に高い回収率を達成することが可能です。ただ、電池全体をとると、プラスチックと他金属が含まれるので、全体の80%という数字になります。

 

 当社のユニークな機械リサイクル処理法に、湿式処理を加えることにより、リサイクル処理の最適化を可能にしました。同時に炭素や鉄粉の排出を最小限に抑える設計も行っています。EV用電池は、まず粉砕し、次にブラックマスを作るために分離します。このブラックマスをHarjavaltaにある当社の処理施設へ運び、そこで湿式処理を行います。この処理方法により、新しい電池に使用する再生材を生産するのです。

 

 

Q: EU電池指令は現在改定が行われていますが、リサイクル産業への影響は?

A: Fortumは、欧州委員会による「電池および廃棄電池に関する規制への提案書COM(2020)798」を歓迎しています。法案は、電池のバリューチェーン全体に、サステナビリティにおける最低基準を設置するものです。欧州には、今後電池生産における世界市場で、高い占有率を確保するチャンスが生まれています。

 

 電池は、サステナブルなモビリティと、再生可能エネルギー生産とグリッドの一体化において、重要な役割を担っていくと考えられています。電池バリューチェーンを構築し、その強化を行っていくことは、欧州および我々の産業にとって、戦略的価値であり、非常に重要なことです。

 

 EUは、これまでに、域内における様々な電池生産推進政策と、重要な原材料を確保する政策を打ち出しています。今回の新規則への提案では、それぞれの電池のバリューチェーンへ注意が払われています。生産者からリサイクラーまで、情報の交換システムも改善されます。ただ、一方で、使用済み電池輸送やリサイクルにおける安全性の問題にももっと注意が払われるべきだと思います。

 

 

Q: 日本の企業とのパートナーシップについては、どの様にお考えですか?

A: 当社は現在のところ、北欧と欧州市場に焦点を当てていますが、他の市場にも目を配っています。

 

 

取材:Tero Holländer氏

   Head of Business Line, Batteries, Fortum Recycling & Waste

 

 

Sources:

 ・https://www.fortum.com/

 ・https://www.fortum.com/media/2020/01/fortum-acquire-crisolteq-recycling-specialist-valuable-metals-batteries

 ・https://www.fortum.com/products-and-services/fortum-battery-solutions/recycling/second-life