2月末に太平洋セメントが発表したリチウムイオン電池用(リン酸マンガン鉄リチウム電池)正極材料「ナノリチア®」の実用化は業界を驚かせるインパクトをもち同社の株価も上昇した。2010年頃から開発に取り組んできたという。並々ならぬ苦労と努力の賜物であるが、この開発経緯などについてIRUNIVERSEは同社の中央研究所とオンラインインタビューを行った。

 

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 開発を行った第3研究部石田部長、同部資源プロセスチーム大神リーダー、山下様へ開発の経緯や今後の生産予定などをIRUNIVERSE/MIRUバッテリーチームが聞いた。

 

 

IRUNIVERSE(以下、IRU):セメント製造を主とする企業が10年間以上LiB正極材料開発を継続できた背景を教えていただけますか?

太平洋セメント大神氏:新規材料開発テーマとして10年間以上継続できた背景は、まず弊社の技術的な強みとして、もともと培っていた水熱合成で使用するオートクレーブ(高温加圧釜)の技術と粉体加工技術などの基盤技術があった事が挙げられます。それに加えて、リン酸鉄系の材料としてニッケル、コバルトなど希少金属を使用しない事、安全性などの面で社会的なニーズが高い事、開発研究の途中経過でユーザー側の評価が高く期待もあった事、といった複数の要因が研究継続に寄与しました。また開発チームの人員も8名で主要メンバーがほとんど変わらずきたこともモチベーションを継続できた一因かと思います。

 

太平洋セメント石田氏:会社の支えがあったことは重要ですが、我々は先行してLiBのリサイクルを手掛けていたので(2011年~)、その量が増え続けていくことと世界的なLiBニーズの高まりを肌感覚でわかっていました。いわば10年前から電池の将来的な市場成長は見えていたので正極材料の開発を続けることができましたね。

 

 

IRU:リン酸鉄と比べて性能は?

太平洋セメント山下氏:電圧:3.7Volt(三元系レベル) 重量エネルギー密度 160wh/kg、サイクル寿命はリン酸鉄と同じです。

 

 

IRU:リン酸マンガン鉄の結晶の安定性は?

太平洋セメント山下氏:マンガンと鉄は原子の大きさに大きな差が無いのでリン酸鉄と同じ安定した結晶になります。

 

 

IRU:今後の実用化予定の見通しは?

太平洋セメント大神氏:年間生産100トン規模の実証プラントが2021年度上期中に完成します。商業化試験を経て、まずは10倍程度の規模が商業生産機の目安と考えております。その間に事業性評価など検討を進めていく予定です。

 

 

IRU:すでにどこかバッテリーメーカーと供給契約を結ばれていますか?

太平洋セメント大神氏:現時点では全くフリーで、国内市場をメインにユーザーワーク中というところです。

 

 

 リン酸鉄リチウムイオン電池は、我が国の吉野先生と一緒にノーベル賞を戴いたグッドイナフ教授が開発した伝統的なリチウムイオン電池です。しかも資源が僅かなニッケル、コバルトを使用していない点が優れた電池です。主として中国で大半が生産されEVで実用化されてきました。

 

 今後の成果は、世界的に最大規模のリン酸鉄リチウムイオン電池に与える影響は大きく、同社の次の段階の生産見通しがおおいに期待されます。

 

 今回のインタビューの結果から改めてリン酸鉄リチウムイオン電池とわが国で現在主流となっている三元系リチウムイオン電池と比較してみました。

 

 

表

 

 

(IRUNIVERSE BatteryTeam)