どこよりも早く米大統領選を占う企画の第5弾。前回紹介した、民主党のニューヨーク州知事、アンドリュー・クオモ氏が女性スキャンダルで火だるまになっている。セクハラを受けたと名乗り出た女性は増え、8日(日本時間)現在で5人となり、進退問題に発展しそうだ。大物男性が大統領候補への道から外れようとしているなか、民主党内は女性の勢いが止まらない。

 

◆アレクサンドリア・オカシオコルテス氏(下院議員)

 

 1,000人以上のゲストが集まった1月20日のバイデン大統領の就任式に、オカシオコルテス氏(ニューヨーク州14区選出)の姿はなかった。民主党からするとトランプ氏を大統領の座から引きずり下ろした記念日。この日ばかりは勝利に酔いたいというのが大方の民主党支持者の気持ちだったが、オカシオコルテス氏は、「軟弱な」考えは持ち合わせていなかった。この日の夜、ニューヨーク市ブロンクスで行われたストライキの最前線に、労働者とともにいた。

 ハンツポイント地区には食品卸会社が多く集まる。ニューヨーク市のスーパーマーケットやレストランで販売、使用される食品の約60%がここから送りだされる。ニューヨーク市の食を支える台所だ。その労働者と会社が対立していた。契約期限満了目前の労使交渉で、労働者側は時給を1ドル引き上げることを要求した。しかし、会社側はわずか32セントの引き上げを提示して譲らなかったため交渉は決裂した。労働者側はこの35年間行わなかったストライキに打って出た。

 20日はスト突入から4日目だった。オカシオコルテス氏は差し入れのコーヒーとホットチョコレートを持って約1,400人の労働者の前に現れた。

 メガホンを持ち「皆さんは、皆さんの人生を決定的に変えることを要求しているとともに、全国の食品労働者、そして、その子供たちの人生を変えるための要求をしているのです」と力説し、労働者を励ました。

 オカシオコルテス氏は自身のツイッターにも、絵文字を交えて励ましのメッセージを掲載した。

 「冬のデモ最前線のアクセサリー。メガホン、手袋、カイロ、団結」

 共和党員でなくとも、オカシオコルテス氏を「社会主義者」だと指摘する米国人は多いが、ツイッターのメッセージを読む限りでは、その指摘がうなずけないこともない。

 米国内の感覚では「思い切り左寄り」のオカシオコルテス氏の思想が、米国のリベラル派の若者に受けている。以前、このコラムでも紹介したが、オカシオコルテス氏は2018年に史上最年少で下院議員に当選した。1989年10月生まれの31歳。米国憲法では大統領は35歳以上でなければならないが、大統領選が行われる2024年11月には35歳になっているので、最年少大統領になる資格はある。

 最近も、オカシオコルテス氏の影響力の大きさを思い知らされた出来事があった。寒波で大規模停電が起きたテキサス州への支援活動を始めたが、2月18日午後、自身のツイッターで募金を呼び掛けたところ、みるみるうちに寄付金が積み上がり、2日後の20日午後には400万ドル、日本円で4億円を超えた。オカシオコルテス氏は住民の支援活動に参加するためテキサス州ヒューストンにも訪れた。資金力と行動力はずば抜けている。

 

 

 ◆ジョー・バイデン氏(現職大統領)

 

 1942年11月20生まれの78歳。2024年11月の大統領選の投票日は81歳。仮に再選したとして2期目の就任式では82歳になっている。

 2期8年を目指すかどうか、バイデン氏は意図的に曖昧にしている、と言われる。予備選中の昨年4月、支持者、資金提供者に「自分は移行のための候補者だ」と話し、当選しても1期しかやらないことを匂わす発言をした。

 その一方で、8月のABCニュースのインタビューでは、2期8年を想定しているかと問われ、「もちろん、その通りだ」と答えている。

 また、バイデン氏の選対メンバーでバイデン氏が最も信頼を寄せる身内の1人である3歳下の実妹、バレリー・オーウェンズ氏は11月、米国のケーブルテレビ局HBOの番組で、バイデン氏が2期目を狙うことを確信していると話している。

 実妹はバイデン氏のこれまでの上院議員の選挙、3度の大統領選挙で、いずれも選対メンバーとして重要な役割を担っている。あまりメディアには登場しないが、バイデン氏の動向を知るためのキーパーソンで、発言は注目を集めた。

 米国には、人種差別がある一方で、いかなる差別も許さないという意識も強い。バイデン氏が健康を維持していれば、現職の強みを発揮して、高齢批判を跳ね除けられるかもしれない。


 

 ◆オプラ・ウィンフリー氏(トーク番組司会者、プロデューサー、俳優、作家、慈善運動家)

 

 テレビ界で大成功した黒人女性。いまでも毎日のように米国のテレビに登場する。知名度は抜群だ。2020年の大統領選に向けてトランプ氏への刺客として黒人層、リベラル派から出馬を期待する声が高まった。ラスムセンなどの世論調査で、ウィンフリー氏に投票すると答えた人がトランプ氏に投票すると答えた人を上回り、立候補すれば、かなりの強敵となると共和党側が恐れた。

 2018年1月のゴールデン・グローブ賞の授賞式でセクシャル・ハラスメントや人種差別と戦う姿勢を示したスピーチは、政治的なメッセージとして米国民に受け止めてられた。

 しかしウィンフリー氏は女性誌のインタビューで「私はそのようなDNAは持ち合わせていない」と述べて、出馬はしないことを明らかにした。

 仮にトランプ氏が2024年の大統領選に立候補し、共和党が勢い付くことになれば、リベラル派からウィンフリー氏待望論が浮上する可能性は十分にある。


 

 ◆その他の注目人物

 

 大統領選の民主党予備選でバイデン氏と争ったピート・ブティジェッジ氏は、しっかりと全国に名前を広めた。バイデン政権で運輸長官に就任。2024年以降の大統領選に何度も絡んでくると思われる存在だ。39歳。退役軍人でインディアナ州サウス・ベンド元市長。米国がさらに多様性ある社会になれば、ゲイであることは選挙でマイナスではなくなる。

 バイデン氏と予備選を争った中では他に上院議員のコリー・ブッカー氏も「次」を狙える位置にある。ニュージャージー州ニューアーク元市長。黒人でオバマ元大統領との関係も強い。

 現職知事ではミシガン州の女性知事、グレッチェン・ホイットマー氏の存在感が群を抜く。一時はバイデン氏の副大統領候補にも名を連ねた。極右団体がホイットマー氏の誘拐を企てた事件が全米を驚かせたが、事件によって知名度が一段と上がったことも確かである。ニューメキシコ州の女性知事、ミシェル・グリシャム氏の動きにも注目が集まる。

 伏兵は元下院議員のジョー・ケネディ氏。祖父はロバート・F・ケネディ元司法長官、大伯父はジョン・F・ケネディ元大統領というプリンス中のプリンス。昨年の上院議員選にマサチューセッツ州から立候補したが、民主党予備選で現職に敗れた。40歳。時代は変わり、ケネディ家の威光がどこまで通じるかは未知数だが、民主党内の期待は高い。


 

Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。