どこよりも早く米大統領選を占う企画の第4弾。民主党は高齢大統領、バイデン氏を気にしながらどう動くのか。

 

◆カマラ・ハリス氏(副大統領、元上院議員)

 

 主義、主張を問わず女性大統領の誕生を求める声は米国内にそれなりに強い。その環境を考えれば副大統領の地位にあるハリス氏は、女性初の大統領に最も近い位置にいることは誰もが認めるところ。

 父親はジャマイカ系、母親はインド系。2017年にカリフォルニア州司法長官から上院議員となったが、インド系女性では初、黒人女性としては2人目という2つの冠が付いた。米国の多様性を体現しているところも、リベラル派の求める大統領像と重なる。

 そんなハリス氏が政治活動費調達のための団体を閉鎖したと、サンフランシスコ・クロニクル紙が報じた。昨年の大統領選民主党予備選のための団体だが、閉鎖によって、現時点で活動しているハリス氏の政治資金団体はなくなった、という。自身の政治的将来よりも、まずは副大統領としての仕事にまい進する姿勢を示したが、もし、バイデン氏が2期目を目指すとなれば、それを阻むことはしないという意思表示ともとることができる。

 バイデン氏の当選が決まった際、バイデン氏の側近らはハリス氏が次の大統領選にからんで注目を浴びることを警戒した。在任中に国民の関心が副大統領に集まってしまうと、大統領の求心力が下がるからだ。「副大統領の仕事は大統領を支えることだ」というバイデン氏側近からの暗黙の「圧力」をハリス氏は十分に理解しているとみられる。

 オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏は、上院議員の時代、オバマ氏と共に上院議員として仕事をした経験があった。政治の現場で培った信頼が土台となって、オバマ大統領とバイデン副大統領の関係ができあがった。

 一方でハリス氏とバイデン氏は、上院での任期が重なっていない。ハリス氏のバイデン氏とのつながりといえば、2015年に死亡したバイデン氏の長男、ビュー・バイデン氏の名前が上がるぐらいだ。ハリス氏がカリフォルニア州司法長官時代にビュー・バイデン氏はデラウエア州司法長官で、仕事を共にしたことがあるという。

 ハリス氏が副大統領の立場から次のステップに上がれるかは、バイデン大統領と個人的な信頼関係を築けるかどうかによる。ハリス氏が2024年の大統領選に向け少しでも動きを見せたとしたら、バイデン氏が後継として認めたか、または、仲たがいしたかのどちらかの瞬間であろう。

 

◆アンドリュー・クオモ氏(ニューヨーク州知事)

 

 民主党の「プリンス」と言える1人だ。来年の知事選で4期目を目指す。父はニューヨーク州知事を3期務めたマリオ・クオモ氏。リベラル派の旗手として、民主党内で「次の大統領」の呼び声が高かった。父と同じように、アンドリュー・クオモ氏への期待も大きい。4選を果たせなかった父を超えて4選を実現すれば、「次は大統領」という話になってくる。当選すれば2024年の大統領選は知事の任期途中。「プリンスの決断」という政治的ドラマを演出できる。

 米国の新型コロナウイルスの本格的な感染拡大はニューヨーク州から始まった。新型コロナ対策に熱心でなかったトランプ前大統領とは対照的に、連日のように記者会見して、市民に科学的データを示しながら説明し、これまで経験したことがない対策を実行した。クオモ氏は新型コロナで政治家としての株を上げた。

 しかし、このところ「プリンス」がつまずいている。高齢者施設などでのコロナによる死者数を州政府が実際より半分ほどの数字にして発表していた。FBI(米連邦捜査局)なども関心を示し、この問題で捜査を始めたという。意図的な改ざんとなればクオモ氏は捜査の対象となる可能性がある。

 また、この問題を一部メディアに話した民主党の州議会議員に、クオモ氏が「お前のキャリアは台無しになるぞ」などと脅迫的な電話をしていたことが明らかになった。州議会議員はCNNの番組に出演し、数字が間引かれていたことや、クオモ氏の強圧的な態度を批判した。

 同じ民主党でありながら、クオモ氏と事あるごとに衝突しているニューヨーク市長のデブラシオ氏も、この騒動に参戦。MSNBCのインタビューに「州の多くの人たちは、そのような電話を受けている。そういういじめは新しいことではない。クオモ氏の典型的なやり方だ」と話し、追い打ちをかけた。

 さらに女性スキャンダルまで飛び出した。クオモ氏のアドバイザーをしていた女性がクオモ氏からキスをされるなど、性的ないやがらせを受けたと暴露した。クオモ氏は「全くのでたらめだ」と全面的に否定している。

 夏場に公の場に現れる際は、会場の温度をキンキンに冷やすことをスタッフに命じるクオモ氏。「プリンス」は窮地をどう切り抜けるのか。

 

◆ステイシー・エイブラムズ氏(元ジョージア州議会議員)

 

 国政経験はないものの、今の民主党内での貢献度は全国レベルだ。ある意味、民主党のカリスマ的な存在だ。2018年のジョージア州知事選に主要政党としては同州初の黒人女性候補として立候補した。敗れたものの、大接戦を演じた。この流れはその後も続き、黒人層、リベラル層を勢い付けた。

 ジョージア州は昨年、上院改選1議席の他に、もう1議席で補選が行われた。ともに決選投票にまでもつれ、2議席とも民主党が獲得した。これにより上院の勢力図は民主党50議席、共和党50議席となった。「タイブレーカー」は副大統領であるため上院は民主党が多数派となった。民主党が上院与党になれたのは、エイブラムズ氏のおかげでもある。

 来年の知事選に出馬するかどうか、まだ正式には明らかにしていないが、本人の宣言前に共和党側は反エイブラムズ氏を強く意識した運動をスタートさせている。共和党員のグループが「Stop Stacey」というタイトルのホームページを立ち上げるほどの意気込みだ。共和党をそこまで掻き立てるぐらい、エイブラムズ氏の存在は大きい。


 

Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。