2021年2月19日、双日株式会社 市川善和氏による講演会「コロナと経済、米新政権の影響」がオンライン配信された。主催は、特殊鋼倶楽部 流通海外展開委員会。約150名が参加した。後日、特殊鋼倶楽部会員専用HPに掲載されるので、会員であれば参照できる。

 

 

〇自然災害が最大のリスク~環境問題は喫緊の課題。米国・世界の方向性となる~

 「世界経済フォーラム「The Global Risks Report2021」※1による、発生の可能性が高いリスクは2019年より異常気象がトップとなり、2020年は、上位5位までをすべて環境関連リスクが独占した。甚大化する豪雨や台風などの極端な気象現象が世界各地で頻発しており、世界経済のリーダーが極めて高い危機感を感じていることがわかる。

 

 国連国際防災戦略事務局(UNISDR)の調査では、2018年までの過去20年間に自然災害によって発生した世界の経済損失額は2兆9080億ドル(約330兆円)。

(前の20年間に比べ2.2倍に増加)

 

 

〇2021年には、感染症問題が第4位に急上昇したが、自然災害が更に大きなリスクとして意識されている。

 2021年、1位:異常気象、2位:気候変動の緩和や適応への失敗、3位:人為的環境災害、4位:感染症の広がり、5位:生物多様性の喪失

 2020年、1位:異常気象、2位:気候変動の緩和や適応への失敗、3位:自然災害、4位:生物多様性の喪失、5位:人為的環境災害

 2019年、1位:異常気象、2位:気候変動の緩和や適応への失敗、3位:自然災害、4位:データの不正利用または窃盗、5位:サイバー攻撃

※1 毎年1月にスイス・ダボス会議が「世界経済フォーラム」主催にて開催され、グローバルリスクについて報告される。

 

WEF_The_Global_Risks_Report_2021.pdf (weforum.org) 英文

 

 グローバルリスクとは、「発生した場合、今後10年間に複数の国または産業に著しい悪影響を及ぼす可能性のある不確実な事象または状況」と定義される。

 

 2019年3月の時点で、「世界規模での感染症がいつアウトブレイクしても不思議でない」と指摘されていたが、この時点では響いていなかった。

 

 

予想されていた新型コロナウイルスショックからの経済回復の道筋

 2007年、米国CDC(アメリカ疾病予防管理センター Center for Disease Control and Prevention )は、100年前のスペイン風邪流行時の米国政府対応の検証を実施し、患者隔離、学校閉鎖、集会やイベントの禁止等の少なくとも一つの医療行為以外の介入をとった都市ではスペイン風邪死亡者数が、数分の一に抑えられたことを突き止めており、大胆・迅速・十分な対応が命であることを、明らかにしていた。(東京慈恵会医科大学浦島充佳教授)

 

 経済への影響や回復の道筋はある程度分かっていた。

 

 株価に限定すると、世界株価指標(MSCI World Index)によれば、過去の感染症(SARS 及びMERS)の株価への影響は、長続きせず(3か月目までは下落のピーク、6か月目には改善していく)、感染症収束後は、各国のファンダメンタルに戻った。

 

 つまり、「需要」「供給」「金融」における問題要素、想定されるダメージ要素とは何かを明確にし、しっかりと対策を取ったことにより、大きなダメージを抑制することができた。

 

 たとえば、「需要」であれば、国の個人消費及び企業への対策が鍵となる。

 

 個人消費の問題点と悪循環(不安の増大⇒収入の減少⇒失業のループ)⇒ダメージ(消費減少・所得減少)⇒個人消費対策(個人消費下支え、収入支援、失業対策、不安の緩和)

 

 企業投資の問題点と悪循環(不安の増大⇒資金繰りの悪化⇒倒産のループ)⇒ダメージ(資金繰り悪化、設備投資減少)⇒企業対策(企業活動維持、倒産対策、資金繰り支援、不安の緩和)

 

 新型コロナウイルスショックによる経済への影響は甚大であるが、 「需要」・「供給」・「金融」のそれぞれのシステムに、 大きなダメージが出なければ、経済減速は凡そ3か月目をピークに その後終息に向かう。その場合、各国のファンダメンタルに戻っていく。

 

 <回復の道筋>

  ①「新規感染者の増加拡大が均衡から減少へ移行」

  ②「政府による、需要対策・供給対策・金融対策の迅速な執行」

  ③「株価等景気先行指標の改善」

  ④「治療薬・ワクチンの開発が進展。供給の開始」

  ⑤「供給(生産)が改善し、その後、設備投資が回復する」

  ⑥「雇用・賃金の改善」

  ⑦「消費改善」

 

 

グラフ

    米国株価は至上最高値を更新         米国の企業業績は復調へ

 

 

 米国では、EC(電子商取引)によるネット消費が急拡大し経済を下支え。

 

 セクター別には、半導体・小売り・ソフトウェア・サービスが牽引した。外食・旅行・宿泊は弱いが、運輸などは復調の兆し。

 

 

グラフ

 

 

 日本も、輸出が主導し経済が回復基調。しかし、潜在成長率が低く、強い経済を取り戻すためには生産性の改善が不可欠。

 

 

バイデン政権の政策

 大統領令により対策を迅速に実施した。

 

 新型コロナウイルス対策

 ・就任100日で1億回のワクチン接種

 ・連邦政府施設内と州をまたぐ移動におけるマスク着用義務

 

 格差是正

 ・富裕層の所得減税の撤回(年収40万ドル(約4,200万円)以上の個人を対象)

 ・法人減税の一部撤回(35%から21%に引き下げていた税率を28%に)

 

 国内産業支援

 ・政府調達による米国製品購入等で4年間で7,000億米ドル

 ・国際協調的な外交政策(米国第一主義からの転換)

 ・パリ協定復帰、WHO(世界保健機関)脱退取り下げ、イラン核合意復帰

 ・ただし、中国とは人権や安全保障問題で対立

 ・また、無条件で中国に対する制裁関税の撤回は無い

 

 環境対策

 ・4年間で2兆米ドルの環境インフラ投資・

 

 対中政策としての「経済安全保障」は、前政権を継承。米国は本気

 国際緊急経済権限法(IEEPA:International Emergency Economic Powers Act)の発動

 

  〇対象となる脅威:非常かつ尋常ではない米国外からの安全保障、外交政策または経済上の脅威

 〇発動要件:大統領が「国家緊急事態」を宣言

 〇措置の概要:通貨、証券、投資等の外国為替取引の調査、規制、禁止など広範な措置

 

 過去の発動例

 ・深刻な人権侵害に関わる主体の資産凍結(2017年)

 ・外国政府による米国選挙への介入等に関与した主体の資産凍結(2018年)

 ・敵対外国人のIT機器・サービスについて、 米国企業・米国人の民間取引を禁止 (2019年)

 ・TikTok・WeChat運営元、バイトダンス・テンセントと米国企業・米国人の取引禁止(2020年)

 

 経済安全保障・日本企業が検討すべき課題

 國分俊史氏(多摩大学教授・ルール形成戦略研究所所長)

 

 「米中冷戦で必要となる企業経営の新秩序」

 

わが国の経済安全保障をめぐる現状と課題について議論 (2020年8月6日 No.3464) | 週刊 経団連タイムス (keidanren.or.jp)

 

 

(IRUNIVERSE tetsukoFY)