どこよりも早く米大統領選を占う企画の第3弾。トランプ前大統領が2度目の弾劾裁判でも無罪となり、政治活動を再開することがはっきりしたなかで、なんとなく揺れそうな面々を紹介する。

 

◆マイク・ポンペオ氏(前国務長官、元CIA長官、元下院議員)

 

 「1384 days」ーー。ポンペオ氏が自身のツイッターにこう書き込んだのは、バイデン大統領が就任した翌日の先月21日だった。日にちを先に数えていくと2024年11月5日。次の米大統領選の投票日だ。書き込みは当然、米政界、メディアの注目を浴びた。次期大統領選に出馬の意欲を示したものとみるのが自然である。

 ポンペオ氏は国務長官を退いた後、一旦は地元カンザス州ウィチタに戻るとみられていた。来年11月にカンザス州知事選があるからだ。現職は民主党のローラ・ケリー氏。地元共和党はポンペオ氏の出馬に大きな期待をかけている。昨年12月のウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューでも、ポンペオ氏はウィチタに戻る意思を示していた。

 しかし、ポンペオ氏は首都ワシントンに残ることを決めた。ホワイトハウスの近くにある保守系のシンクタンク、ハドソン研究所の特別研究員に就任したからだ。研究所が正式に発表したのが、ポンペオ氏のツイートから5日後の先月26日。次期大統領選への「本気度」を高める動きとして受け止められた。

 典型的な「トランプ・チルドレン」だ。米誌ニューヨーカーが皮肉を込めてポンペオ氏のことを「The Secretary of state(国務長官)」ならぬ「The Secretary of Trump(トランプの秘書官)」と称したこともある。

 「不正選挙」だという前大統領の根拠ない主張にポンペオ氏は最後まで同調し、自らも発信した。トランプ氏は2度目の弾劾裁判でも無罪となり、今後の政治活動が続けられることになった。2024年に向けトランプ氏やトランプ氏の長男が勢いずくと、ポンペオ氏の大統領への道は、逆に遠のく。

「2028年狙い」に軌道修正を迫られるとすれば、カンザス州知事はポンペオ氏にとって、かなり魅力のあるポストだが、今の知名度が2028年まで保てるのか。政治家としての「底の厚さ」が求められる。

 エリート軍人を養成するウエストポイント陸軍士官学校を1986年、首席で卒業した後、米陸軍に入り、機甲部隊の将校だった。トランプ政権はウエストポイントの86年卒業組を重要ポストに次々と登用したが、軍関係者らから、ポンペオ氏らの軍人としての実績を鑑みて「ウエストポイント・マフィア」と酷評する声も飛び出していた。ポンペオ氏が次のステップに進むには軍人の信頼が必須である。

 

◆トム・コットン氏(上院議員、元下院議員)

 

 ポンペオ氏と同じく米陸軍で大尉だったアーカンソー州選出の上院議員、トム・コットン氏はイラク、アフガニスタンで歩兵連隊などに所属した。同性婚に反対する右派。警察官による黒人殺害などで「Black Lives Matter」運動が広がりを見せた中、「米国の法体制に構造的な人種差別がある」とする意見に断固として異論を唱えた。また、過去の奴隷制については「必要悪」だというのが主張だ。

 しかし、大統領選に不正があったというトランプ前大統領の主張には乗らなかった。「トランプ氏は米国人を間違った方に導くことを止めろ」と手厳しく批判した。

 

◆タッカー・カールソン氏(ジャーナリスト)

 

 2度目の弾劾裁判でトランプ氏が無罪になり、共和党内が不安定になった。トランプ支持者と党主流派が分断し、この先、共和党が割れるとする見方が政治アナリストの間にもある。分断が深刻になればなるほど、2024年の大統領選では、政治家ではないアウトサイダーが党の「救世主」として注目される。

 その筆頭が、Fox Newsの番組「Tucker Carlson Tonight」のアンカーを務めるカールソン氏だ。活字メディアからテレビに転身。CNNやMSNBCでも活躍したベテラン。移民や女性に対する過激な右派の主張が物議を醸し、スポンサーが撤退することもあったが、番組は高視聴率を続けている。

 

◆その他の注目人物

 

  歴代大統領で州知事を経験したのは17人。知事は大統領への登竜門でもある。有力共和党知事は、虎視眈々と大統領を狙う。2015年からテキサス州知事を務める車いすのグレッグ・アボット氏は来年11月の知事選にも立候補する。当選しても任期途中で大統領選に出馬することを匂わす発言を昨年11月にしている。フロリダ州も来年に知事選が予定されているが、現職のロン・デサンティス氏の大統領選への動向が注目されている。

 トランプ氏を批判するメリーランド州知事のラリー・ホーガン氏からも目が離せない。知事としての支持率は高く、選挙にも強い。

 上院議員では2016年の大統領選でトランプ氏と指名争いしたフロリダ州のマルコ・ルビオ氏の立候補を望む声は常に高い。両親はキューバからの移民だ。同じくフロリダ州のリック・スコット氏、サウスカロライナ州のティム・スコット氏の名前も上がっている。


 

Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。