どこよりも早く2024年の米大統領選の行方を探る企画。2回目も引き続き、共和党内の注目人物をチェックする。トランプ政権内にいたが袂を分かったかのように見える人、ののしり合っていたのに今になってトランプ人気にあやかろうとしている人。戦い方はそれぞれだ。

 

◆マイク・ペンス前副大統領(元インディアナ州知事、元下院議員)

 

 ペンス氏はホワイトハウスを去った時、「ホームレス」だったという。インディアナ州知事時代には、自宅を売却して知事公舎に住んでいた。州知事から副大統領になったため、引っ越しは知事公舎から副大統領公舎だった。そして持ち家がないまま副大統領職を離れた。

 バイデン新大統領の就任式(1月20日)に出席した後、ペンス氏は地元インディアナ州にいったん戻った。この時は兄弟の家や知事の別荘などを転々としていたという。その後、ペンス氏は夫人とともにカリブ海の米領バージン諸島セント・クロア島で休暇を過ごしていたが、今月3日、夏まではバージニア州のアーリントンに居住することを明らかにした。首都ワシントンからはポトマック川をはさんで向かい側。当面、政治の中心地から、離れない。

 ペンス氏がしばらく定住地を決めなかったのは、持ち家がないという理由だけではなかった。

 トランプ氏を支持する極右勢力が1月6日に国会を占拠した際、メンバーらは「ペンスはどこだ」「ペンスを絞首刑にする」などと叫びながら、副大統領を探していた。米国メディアによると、暴徒はペンス氏のいた場所から約30メートルの所に迫っていたという。ペンス氏は国会で、大統領選の結果を議会が承認する手続きの議長を務めていた。「大統領選に不正があった」というトランプ氏の根拠ない主張をペンス氏は「無視」し、憲法の規定通り淡々と選挙結果の承認手続きを進めた。4年間、トランプ氏の元で副大統領を務めたペンス氏は、最後の最後でトランプ氏を見限ったのだ。トランプ氏はペンス氏を露骨に非難し、極右勢力はペンス氏を「裏切り者」だと糾弾した。

 ホワイトハウスの最後の数日と、それ以降の生活は危険が伴っていた。ペンス氏にとって、身の安全を確保するには「ホームレス」のほうが好都合だったのである。

 一方で、トランプ氏と一線を画すことは、今後の政治活動を続けるための必須条項だと考えたのかもしれない。

 前大統領と前副大統領はそれぞれ、政権移行に協力するため半年ほど「引き継ぎ事務所」を構える。トランプ氏は今の居住地であるフロリダ州パームビーチに設置した。ペンス氏は地元インディアナ州ではなく、しばらく居住するアーリントンに設置する。当然、2024年の大統領選を意識してのことだとみられている。ペンス氏は今後の政治活動について、公には何も語っていないが、米メディアはペンス氏が近く、新しい政治資金団体を立ち上げるとみている。「引き継ぎ事務所」をワシントン近くに置くのは、共和党の資金提供者との関係を維持するためだとの見方が強い。

 また、ペンス氏は保守系の政治団体「Young America’s Foundation=YAF(若き米国の基金)」とともに、ポッドキャストビデオを制作していくことを明らかにした。大学生や高校生ら若い世代に保守思想を広げるための事業だ。ペンス氏は1990年代、保守系ラジオのトークショーのホストをしていた。下院に当選できたのは、このホストとしての人気が大きかった。ペンス氏にとっては政治活動の原点に戻る格好だ。YAFは保守系の政治団体の中でも主張が多様で「傑出した組織」として定評がある。

 ペンス氏は当面、「トランプ氏を支えた副大統領」と「トランプ氏にダメ出しした副大統領」の2つの顔を操りながら2024年に向けて進む。

 

◆ニッキー・ヘイリー氏(元国連大使、元サウスカロライナ州知事)

 

 サウスカロライナ州初の女性、有色人種知事だったが、トランプ政権時に国連大使に任命された。外交の仕事をしたことはほとんどなかったが約2年間、トランプ外交の顔として国連で存在感を見せつけた。私生活を優先させたいとして2018年12月で国連大使を辞めた際、2020年の大統領選にトランプ氏への対抗馬として共和党主流派から出馬するのではないか、との噂があった。その時は出馬することはなかったが、2024年については、早くも「フロントランナーになり得る」と党内で噂される。先月、「Stand for America」という自身の政治活動委員会を立ち上げ、本格的に政治運動を再開した。

 両親はインド・パンジャブ州からの移民。2016年の大統領選の最中は、移民に厳しいトランプ氏を批判していた。そのヘイリー氏が閣僚級の国連大使になったこと自体が驚きだったが、国連大使を辞任以降、久しぶりにメディアの注目を浴びたヘイリー氏の発言はトランプ氏と距離を置く内容だった。先月上旬に開かれた共和党全国委員会のウインターミーティングでの席上、大統領選の結果に不正があったと繰り返すトランプ氏の行動を「歴史によって厳しく裁かれる」と批判した。

 トランプ氏に対する姿勢が「批判」「仲間」「仲間離脱」「批判」と変遷するヘイリー氏も、ペンス氏同様、「トランプ氏を支えた」立場と「ダメ出しした」立場の2つの顔を操る。米の保守系シンクタンクが発行する雑誌「The National Interest」はヘイリー氏を

「Kinda Sorta Trumper」と評した。「まあ、何と言うか、トランプ派と言えば、トランプ派みたいな・・・」とでも訳せるだろうか。

 

◆テッド・クルーズ氏(上院議員)

 

 テキサス州の上院議員であるクルーズ氏がトランプ氏と共和党指名争い演じた2016年、2人は選挙戦で激しいののしり合いを演じた。トランプ氏は、精神的に不安定だったことがあるクルーズ氏の妻をばかにしたり、クルーズ氏の父親がジョン・F・ケネディー暗殺に関与していたなどと話し、クルーズ氏を攻撃した。

 これに対しクルーズ氏はトランプ氏を「道徳心が全くない」「病的な嘘つき」「鼻たらしの臆病者」などと糾弾した。

 ところがクルーズ氏は今、一番のトランプ信奉者だ。トランプ氏が主張した大統領選に不正があったとの訴えを各地の裁判所が却下しても、クルーズ氏は不正があったと言い続けた。トランプ支持層の動きを見極めたいとするのが共和党内の大方の考えだが、トランプ派一本に絞るという、逆張りの戦法にどっぷりつかっている。

 クルーズ氏は2018年の中間選挙後にひげをはやした。童顔の部類であるクルーズ氏だが、ひげで男らしさを強調した。メディアはクルーズ氏のひげをおもしろおかしく取り上げたが、このひげ報道でクルーズ氏の全米での認知度が上がったのは間違いない。同年の上院議員選では民主党の若手、ベト・オルーク氏に苦しめられ、ひやひやの再選だった。2024年に向け、派手な作戦に打って出てくると見られる。

 

Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。