鉱山大手、BHP(オーストラリア)、グレンコア(スイス)、アングロ・アメリカン(英国)の3社がコロンビアに所有する中南米最大の露天掘り炭鉱、セレホンの運営をめぐり、OECD(経済協力開発機構)の調査を受けることになった。地元先住民や支援団体が、深刻な環境破壊と人権侵害があったとして訴えたもので、調査の進展次第で3社は厳しい対応を迫られる。中南米では先住民の環境保護活動家らが殺害されるケースが多発し、深刻な社会問題となっている。鉱物や木材の違法採掘・伐採を行う犯罪組織の仕業とみられ、企業活動とは別次元の話ではあるが、先住民らにとっては、どちらも「祖先からの土地を奪う人間」である。無法状態が拡大すればするほど、めぐりめぐって企業に向けられる目も厳しくなる。(写真はイメージで、本文の内容とは関係がありません)

 

 セレホン炭鉱はコロンビア北東部、ラ・グアヒーラ県のベネズエラ国境近くにある。広さは約690平方キロで、3社が3分の1ずつの所有権を握っている。1985年に操業を開始、2019年の採掘量は約2500万トンだ。

 

 周辺はコロンビア先住民の最大勢力であるワユー族の居住地だ。OECDへの訴えによると、炭鉱開発と採掘によって先住民やアフロ・コロンビアン(アフリカから奴隷としてコロンビアに連れてこられた黒人の子孫)の多くが居住地を追われたほか、大気汚染や川の水の汚濁が常態化した。また環境汚染によって近隣住民の健康被害が深刻化したという。このため、先住民や人権保護団体はセレホン炭鉱の即時閉鎖を求めている。

 

 国連人権理事会の特別報告者、デイビッド・ボイド氏は昨年9月、セレホン炭鉱による環境へのダメージとワユー族の健康被害が深刻であるとの認識を示し、コロンビア政府にセレホン炭鉱の一部操業停止を求めた。

 

 またコロンビア憲法裁判所も、炭鉱近くに住む住民の血中から高濃度の有害金属物質が検出されたことから、周辺の環境と住民の健康を守る対策を講じるよう炭鉱に命じた。

 

 豪ABCニュースによると、セレホン炭鉱側はこれらの判断を受けて、先住民側と協議し、環境や健康問題で先住民側の要求に応じることや健康センターを建設することなどで基本合意したと説明しているが、先住民側は基本合意について否定しているという。

 

 セレホン炭鉱のあるラ・グアヒーラ県については、貧困問題が深刻になっている。特に郊外では食料や飲料水が十分に行き渡っていないと、人権擁護団体が指摘するなど、先住民の生活環境は悪化し、国際的な支援が必要だとされている。

 

 中南米ではこのところ、鉱山での惨事が続いている。2015年11月にはブラジルのマリアナにある鉄鉱石鉱山の廃棄物を貯めるダムが崩壊し19人が死亡、有害物質が川に流れ出し、洪水となって周辺の住宅地を襲った。2019年1月にはリオデジャネイロの北約450キロにあるブルマジーニョの鉄鉱石鉱山でダムの崩壊があり、270人が死亡している。これら大きな事故は資源開発会社への市民の信頼度を大きく引き下げた。

 

 市民を苦しめるのは合法的な資源開発だけではない。違法操業者による地下資源の採掘や森林の伐採で環境は破壊され続けている。昨年、MIRUのサイト上でラテンアメリカの犯罪組織による金の違法採掘について報告したが、犯罪組織は採掘、伐採をするだけでなく、これに立ち向かう環境保護活動家らを暗殺しているのだ。

 

 英国の人権擁護団体「グローバル・ウィットネス」によると、2019年に殺害された社会活動家、地域リーダーの数は全世界で212人。内訳はコロンビア64人、フィリピン43人、ブラジル24人、メキシコ18人、ホンジュラス14人などで、犠牲者の3分の2がラテンアメリカである。

 

 2020年も活動家殺害事件が相次いだ。1月にはメキシコ・ミチョアカン州で、北米と中米を渡り鳥のように飛ぶ蝶、オオカバマダラの保護区で働く環境保護活動家2人が殺害された。この地域は森林の違法伐採が問題になっており、2人はオオカバマダラの保護のため、違法伐採を厳しく糾弾していた。このうちの1人、ホメロ・ゴメス・ゴンザレス氏は欧州やカナダでオオカバマダラの保護のために資金集めを呼び掛ける一方、ソーシャルメディアで保護区の現状などを紹介するなど世界的に運動を広げていた。

 

 同月、ニカラグアでは自然保護区で先住民の活動家ら6人が武装した男たちに襲われ死亡、10人が誘拐された。2月にはコスタリカで原住民の活動家が犯罪組織によって銃殺された。4月にはブラジルで、アマゾンの先住民族グアジャジャラの森林保護活動家が殺害された。前年11月以降、グアジャジャラのリーダー殺害が続き、犠牲者は5人となった。

 

 活動家の殺害は特にアマゾン地域で目立っている。違法伐採で利益を上げる犯罪組織が暗躍しているためだ。2019年のデータでもアマゾン地域での犠牲者は国をまたいで33人。ブラジルの犠牲者のうち9割はアマゾン地域だ。

 

 ブラジルのボルソナロ大統領がアマゾンの開発に前向きであることから、森林の違法伐採が加速しているとの指摘が上がっているが、今年1月22日、カヤポ族らアマゾンの先住民のリーダーが、「非人道的犯罪を行なっている」としてボルソナロ大統領をICC(国際刑事裁判所)に訴えた。

 

 企業や組織犯罪、政治家に苦しめられる先住民は国際機関に助けを求めるしかない。それがラテンアメリカの実態である。

 

Taro Yanaka

街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

趣味は世界を車で走ること。