豪州では最近、シドニーにおいてクリスマス直前に小規模クラスターが起きたことで、市中感染拡大に対する警戒状況が続いていた(とはいえ、多い時でも一日20〜30件ほどと、多くの諸外国と比べれば規模としては小さいものである)。まだ油断は禁物とはいえ、一時的かつ局地的なロックダウンなども経て、現在この波は幸いにも収まりつつあると言えるだろう。1月14 日現在、前日からの24時間のNSW州市中感染(陽性)確認件数はゼロであったとのこと。少なくとも、感染大爆発、全域ロックダウンという最悪のシナリオは、今の所避けられている。

 

 今回、他州はどうであったか。シドニーからの、ウイルスの無意識的な“持ち込み”によって他州で陽性反応が確認されることはあったが、いずれの州も感染拡大あるいは爆発という規模にはなっていない。ただし、今回シドニーで市中感染クラスターが発覚したことにより、各州の隔たり、方向性の違いがより顕著になったことは、間違いない。市中感染が発覚した特定州に対してすぐに州境を閉めることの正当性、あるいはそのやり方に関して、その時点でたまたま他州に滞在していた人は自州に戻ることすらできなくなるのかと言った点も含め、州ごとに決定の自由があることは双方認めながらも、州首相同士がメディアを通して舌戦を繰り広げている。スコット・モリソン首相率いる連邦政府は、各州のやり方に対しある程度の意見は述べるものの、あくまで中立的な立場を保ちながら、州同士の争いが激化しないよう見守っているようにも見受けられる。

 

 ところでクイーンズランド(QLD)州は、前述したシドニークラスター由来のものとは別に感染が発覚したことから、先週末、ブリスベン全域において超短期間のロックダウンを行なった。これは外国からの帰国者を強制的に2週間隔離しているホテルの清掃員から英国由来の変異種の感染が確認されたことによる決定で(元々は帰国隔離者から感染した模様)、ロックダウンは72時間(3日間)に限定して行われ、現在は終了している。感染力が従来のものより格段に強いと言われている英国型変異種とはいえ、1件の陽性発覚で街全体にロックダウンを敷くことが果たして最良なのかどうかという批判は勿論あったようだが、このあたりの議論は他に譲ることにして、ここではこのロックダウンによってFIFO労働者が受けた影響を確認したい。

 

 クイーンズランド資源評議会(QRC)のIan Macfarlane会長は、資源セクターは新型コロナウイルスの拡散を防ぐためにできる限り全てのことをすると表明した、とこのロックダウン中に述べている。そして、「ロックダウンは1月12日に終了するが、おそらく複数の資源会社は、1月22日までの間、不要不急のFIFO労働者の出張を制限することで、慎重なアプローチを取るだろう」と述べた。具体的には、今週のQLD地方への出張者数は通常を60パーセントも下回り、3500人から1500人以下へと減少することが見込まれているという。

 

 同氏は、「鉱業およびガス会社が、今回の新型コロナウイルスの最新の課題にこのような対応を見せたことを誇りに思う」とコメント、迅速かつ協力的な業界の対応を高く評価した。一方で、資源部門は基本的には必要不可欠な産業と考えられており、資格のある(そしておそらく不要不急ではない)FIFO労働者は、厳格なプロトコルの下、QLD州内や州間の移動を続けることが許されているとのこと。QRCは、空港にてFIFO労働者の飛行前の健康チェックと体温測定などを行なっているという。

 

 QLD州の感染状況の最新情報としては、、現時点では、清掃員のケースが大規模市中感染へと拡大している様子はない。しかし、清掃員のパートナーからは陽性反応が確認され、また、おそらく最初に清掃員が感染するきっかけとなった、勤め先ホテルでの帰国者隔離組からも、これまでに4人がこの変異株による陽性反応を示したそうだ。これら全てが繋がっている、つまりホテル内で感染拡大が起こっている可能性が高いという事態を重く見た州政府は、このきっかけとなったブリスベンのホテルGrand Chancellor内で現在隔離中の人々に、元々予定されていた2週間の隔離後、さらに別のホテルでの2週間の追加隔離を課すことを決定。最初の隔離中に複数回行われたPCR検査で陰性結果を受け取っていた人々らをはじめ、この突然の決定には、当然ながら不満、批判も相次いでいる。

 

 なお、現在QLD州は、今後の帰国者、入国者の強制隔離場所として、これまでのようなホテルではなく鉱山キャンプ(FIFO労働者など作業員用の宿泊施設)を使用することも検討中であるという。州首相によれば、いくつかの鉱山キャンプは、バルコニーもついているなど“4つ星ホテル並み”の待遇であるとのことで、また、スタッフや清掃員なども含めた、全員のための十分なスペースがあるとのことだ。

 

 日常的に州を越えるFIFO労働者にとっては、州全体や国全体のロックダウンにはならなくとも、州境が閉じられてしまうかどうかという点も非常に深刻な問題だ。さらに今回、QLD州が複数の鉱山キャンプを隔離場所の候補に入れているということで、こちらもFIFO労働者、あるいは鉱山企業に一定の影響を及ぼすものであろう。

 

 

(A.Crnokrak)

 

 

*****************************

 豪州シドニー在住。翻訳・執筆のご依頼、シドニーにて簡単な通訳が必要な際などには、是非お声がけください→MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

*****************************