2021年1月4日

 菅義偉首相は年初から厳しい政権運営を迫られている。新型コロナウイルスの感染拡大で経済低迷は長期化が必至とみられるなか、観光支援策GoToトラベル・キャンペーンへの固執など政権のコロナ対策が批判され内閣支持率は急落。「当面支持率が浮揚する要素はない」(自民党幹部)とされ、9月の自民党総裁任期の満了で退任の見方があるなか、4月までの早期辞任観測も浮上してきた。(写真はYahoo画像サイトから引用)

 

 菅政権は昨年9月の発足当初、世襲ではない秋田出身のたたき上げの経歴などが好感され、報道各社の世論調査で70%前後と、高い内閣支持率でスタートした。しかし、12月以降は急落、昨年末の調査では支持率が読売新聞で45%まで落ち込み、複数の世論調査で不支持率が支持率を上回っている。安倍晋三前首相の桜の会前夜祭をめぐる公設第一秘書の起訴や、学術会議の人選問題なども響き、1月18日から通常国会が始まり、テレビ中継される予算委員会などで「逆切れしやすい菅氏の表情がお茶の間に流れれば、支持率は下がることはあっても上がることはない」(自民党幹部)との指摘もある。

 支持率急落の最大の要因はコロナ感染第3波とその対応への国民の不満だ。首相は観光業界支援のためGoToトラベルの継続に固執。感染拡大に影響はないとの主張を繰り返したが、医師や世論の懸念に押される形で12月15日に年末年始の一時停止を表明したのは周知の通りだ。

 年明け1月2日は東京都の小池百合子知事ら1都3県の知事が政府に対して緊急事態宣言の発出を要請したが、菅首相は4~5月の緊急事態宣言によって日本経済が戦後最大の落ち込みとなったことなどを懸念してか、慎重姿勢を貫いていた。ところが、ここにきて方向転換した。首相は4日に官邸で記者会見し、緊急事態宣言の発出を検討することを明言した。

 今後の最大の焦点の一つは7月に予定される東京五輪・パラリンピックの開催可否だ。官邸は「春までギリギリ待って最終決断したい意向」(関係者)とされる。聖火リレーのスタートが3月25日に予定され、事実上その時点までには対応を迫られる公算が大きい。英国のほか、南アフリカで新型コロナ変異種が見つかり、アフリカ大陸での選手権開催が難しくなっており「五輪開催は事実上無理」(経済官庁)との声もある。中止判断に追い込まれる場合には、1年の開催延期を決めた安倍前政権の判断にも責任が問われ、安倍政権下で官房長官を務めた菅氏への批判は必至だ。

 その中で与党関係者が頭を悩ませているのが衆院解散時期だ。衆院任期は今年10月。仮に7月に五輪を開催できると仮定した場合、公明党が東京都議選とのダブル選挙を拒否している現状では、菅首相が解散権を行使できるのは、2021年度予算通過後の春もしくは五輪後の秋に絞られる。

 現在の自民党は、株高を背景に選挙にめっぽう強かった安倍政権下で当選した若手議員を中心に選挙基盤の弱い若手議員が多い。彼らは菅政権の内閣支持率急落に戦々恐々としている。「人気のない菅首相では選挙は戦えない」との見方が自民・公明両党内のコンセンサスとなれば、与党内の菅おろしは必至だ。

 立憲民主党の羽田雄一郎参院議員の急死などにより、4月25日に予定されている補欠選挙で与党候補が敗退すれば、菅氏の責任問題が浮上し、新しい自民党総裁のもとで衆院解散に踏み切るという声が囁かれ始めた。

 ポスト菅候補として、石破茂元幹事長や河野太郎行革相、野田聖子幹事長代行、茂木敏充外相などの名前が挙がる。石破氏は2020年9月の総裁選惨敗を受けて派閥の代表を辞任しているが「公明党が石破派は解消しないほうがよいと助言した」(自民石破派)など、いまだに与党内で根強い人気がある。

 ここにきて自民党関係者を戦慄させているのが、遠望深慮に長けた二階俊博幹事長の動きだ。二階派の事務総長を務めていた吉川貴盛元農相が鶏卵メーカーからの贈賄疑惑を受けて議員辞職したのを受けて、二階氏は旧民主党出身のいわば外様議員である山口壮氏を後釜に据えた。山口氏は外務省出身で小沢一郎氏の強い勧めで政界入りするなど、小沢氏の側近中の側近だ。そもそも二階氏は小沢氏の元部下の関係にあるため「自民党の旧田中派的なグループを与野党の枠を超えて狙っている」(自民党中堅)と見られている。次期首相候補として、石破氏や小池都知事など様々な人材が選択肢に入ってくるため、「自民党は液状化する」(ベテランの永田町ウォッチャー)との見方がにわかに現実味を帯びてきた。

 

樋ノ口文夫(ひのくち・ふみお)

 政治ジャーナリスト。永田町や霞が関などからの情報入手に定評がある。