欧州における新型コロナ第二波は各地で再び猛威を振るっており、ロックダウン措置にもかかわらず、ここオーストリアも状況改善のスピードは非常に遅い。

 新規感染者はこの1ヶ月横ばい状態で連日2000人から3000人、死亡者は100人を超えている。

 

 そのため、政府は一旦緩和したロックダウン措置の厳格化をやむなくされ、クリスマス休暇が開ける28日から再び店舗や文化施設など全てが閉鎖となる。それでも、なんとかクリスマス行事だけは小規模でも行えるようにと、クリスマス直前までは店舗の営業は維持された。

 

 オーストリアの国教はカトリック、クリスマスは日本の正月に相当する伝統行事だ。多くが実家に帰省し、二世代、三世代と家族が集まって祝う重要なイベントだ。賑やかなパーティーが開かれるのは31日の大晦日で、クリスマスは家族のみの時間を過ごす。そのため、あらゆる世代にとって忙しく、ストレスの溜まるシーズンだが、一年に一度家族が集う楽しい時期でもある。だが今年、新型コロナは人々のクリスマスの予定を大きく変えてしまった。ここウィーンでも、オーストリアの近隣国に家族を持つ人の多くは帰省を諦めている。

 

 例年にない状況下だが、それでもカレンダー通りクリスマスはやってくる。24日クリスマスイブのウィーン市内へ出かけてみた。

 

 

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 この時期は、オペラの特別プログラムや世界最高峰と言われるウィーンフィルハーモニーのコンサート、バル(舞踏会)などを目当てに世界中から訪れる観光客でごった返すウィーンだが、今年は観光客がいないため人の数は圧倒的に少ない。

 

 それでも、規模こそ小さくなっていても、それぞれの店はツリーやショーウィンドーの飾りに余念がなく、街はクリスマスムード一色だ。たくさんの買い物袋を抱えて歩く人で街の目抜き通りは埋まっており、クリスマス用のイルミネーションライトがクリスマス気分を一層高めてくれる。

 

 オーストリアで一番有名な高級ホテルで、チョコレートケーキでも知られるザッハホテルの前を通りかかると、ワゴンに並べられたザッハトルテ(チョコレートケーキ)がホテルの前で販売されている。ホテル業界はコロナの打撃を最も受けたセクターの一つで、現在ホテルの宿泊は出張者に限って許可されている。ホテルのスタッフの一人に現状について話を聞いてみると、ホテルの客室利用率は10%から15%だという。一方で、ザッハトルテの売れ行きはというと、ケーキは観光客だけでなく地元オーストリア人にも大変人気があり、時期も手伝って上場だと笑顔で答えてくれた。

 

 高級ブティックが並ぶGraben通りでは、道端でクリスマス用のツリーが売られている。この時期の風物詩だ。大小それぞれのツリーが通りの一角を占領している。売れ行きを聞いてみるとこちらも上々。おそらく、通常はこの時期を他所で過ごす人たちが帰省できなくなり、ウィーンの自宅でクリスマスを祝う人が増えたためだろうという。

 

 

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 高級食材を売るデパートJulius Meinl は買い物客で大混雑、この時期トリュフやフォワグラも出回り、その横にはフランスの有名メゾンのシャンペンが積まれている。レジに並ぶ人たちの多くは、クリスマス用にとこういった高級食材を求めている。地元紙の報道によると、飲食店が閉鎖しており外食ができない代わりに、食材にお金をかける人が増えているという。

 

 ウィーンで最も有名な観光地の一つ、最後の皇帝フランツ・ヨーゼフと通称シシと呼ばれた皇后エリザベートが居住した宮殿の前には、かつて皇室御用達であった菓子店Demelがある。観光客に大人気で年中混雑しており、カフェも併設するが席を取るには常に1時間待ちという状態だ。だがコロナの影響で、現在カフェは閉鎖、新鮮なケーキを販売していたカウンターを取り払い、カイザーシュマレンというクレープ菓子のテイクアウトに切り替え、菓子類も日持ちのするチョコレートやクッキーのみになった。それでも、ショーウィンドーにはクリスマスデコレーション用の巨大なチョコレート菓子が飾られ、その横では菓子職人が芸術的なクッキーを作っており、道ゆく人は足を止めてカメラを取り出している。

 

 どこを見渡しても、クリスマス前の浮かれた明るいムードは健在だ。

 

 コロナ危機下、オーストリアの社会状況を見る時、やはり福祉国家という言葉が浮かぶ。相対的な見方ではあるが、アメリカに居住した後欧州へ来た際にその違いを実感した。医療保険や社会保障面をアメリカと比較すると、圧倒的に欧州の国々、特にオーストリアを含む西側諸国は充実している。

 

 

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 ここウィーンでは、春先のロックダウンと11月に再び行われたロックダウンの後でも、今まで破産に追い込まれた店は非常に少ない。観光客相手の店は開店していてもほとんど客が来ないため、閉店して社会保障を受けた方が得策という判断から閉店を続けている店はあるが、これも社会保障が行き届いているからできることだ。近所の店や行きつけの店を見ても皆なんとかここまで生き延びている。

 

 二度目のロックダウンの前に政府は、一番影響を受ける飲食店に対し、前年度同月収益の80%を支援することを約束した。一般会社員や美容院、小売店など一部の小規模事業者の話を聞くと、これまでの社会保障に関して政府に対する不満の声は少ない。ロックダウンに対する小規模なデモはあったものの、暴力沙汰になるような類いのものは皆無だ。

 

 状況は決して明るくはない。この国の880万という人口比では、連日100人を超える死者は決して少なくない。だが、とりあえず今年、クリスマスを迎える街の人々の表情が決して暗くないのは、国の社会保障に支えられていることが大きいのではないだろうか。

 

 

(Y.SCHANZ)