「カーボン・ニュートラル達成のためには再エネ、原子力、脱炭素化した化石燃料が3本柱となる」

 

 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所の豊田正和理事長(写真)は12月22日、都内でMIRUPLUSとのインタビューに応じ、2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにするためには「再生可能エネルギー、原子力発電、脱炭素化した化石燃料の技術開発が3本柱になる」との見解を示した。

 

 

MIRUPLUS編集部(以下、MP)

 菅義偉首相が先般、2050年のカーボン・ニュートラルを表明しました。まずはこれをどのように評価しますか。

 

豊田氏

 「多くの国々がカーボン・ニュートラルを目指すというなかで、日本はよいタイミングで発表しました。これを達成するためには、官民によるこれまで以上の努力が必要です。官民が手を携えれば、解決が可能と考えています。今後、具体的なロードマップを明確にしてほしいと思います」

 

MP

 経済産業省は2050年時点の発電量に占める再エネの比率を50~60%に高める案を実行計画に参考値として明記するとしています。日本政府が2021年半ばに策定するエネルギー基本計画にどう反映されるとみていますか。

 

豊田氏

 「経済産業省がどういう絵を描いていくか分かりませんが、(目標を達成するためには)再エネ、原子力、脱炭素化した化石燃料が3本柱となるでしょう。再エネ比率について私は最大限50%ではないかと申し上げてきました。(天候状況に左右される)風力や太陽光はバックアップがないと成り立たない電源です。化石燃料を使用しないとすれば、蓄電池を導入しなければなりませんが、コストが高い。原子力発電所を極端に増やすことはできないでしょうが、原発の新増設も必要です」

 

MP

 福島第一原発事故の影響もあり、原発の再稼働がままならないなか、新増設には国民から反対の声も多く、支持は得にくいのではないでしょうか。

 

豊田氏

 「2030年度に原発の比率を最低でも20~22%維持することは必要です。比率をもっと増やしてもよいと思っています。いま存在する原発を使った上で将来の技術をつくりましょうと。そのためには国民との信頼回復が大切となります。地道に対話を続けていくしかありません。マスコミが真実を伝えていくことも重要です」

 

MP

 カーボン・ニュートラルは鉄鋼や自動車などの産業界には厳しい目標となります。実現可能とするための方策はありますか。

 

豊田氏

 「まずは技術開発です。二酸化炭素(CO2)の回収・貯蔵(CCS)機能が付いた火力のほか、水素やアンモニアを利用するといったカーボン・リサイクルの考え方が認知されてきました。CO2を資源として使おうということで、CO2吸収型コンクリートの技術開発が進んでいます。セメントを減らし、CO2をそのまま吸収するというものです。セメントをつくるのを100とした場合、CO2を埋めることで半分にします。ネガティブ・カーボン技術と呼ばれていますが、カーボン・リサイクルを利用するカーボン・ニュートラルにつながります。つまり、CO2を原料として使う技術を指します」

 

 「その次に市場の開拓です。水素やアンモニアを利用する課題はコスト低減です。コスト高であれば産業全体が困る。産業の空洞化につながりかねません。アジアや欧米などといっしょになり、国際協力のもと、市場をつくっていれば、先ほど述べた3本柱でポートフォリオを形成することができます」

 

 「経産省にはぜひ、(2021年に英国グラスゴーで開催される予定の)第26回国連気候変動枠組み条約締結国会議(COP26)に参加してほしいですね。温暖化問題は化石燃料ではなく、CO2の問題そのものです。欧州は再エネ中心の政策となっています。再エネ中心主義に対し、日本は手段としての再エネだけでないと主張すべきです。その意味で、これまでと違ったキャンペーンを(COP26で)やってほしい」

 

MP

 2050年の目標達成に向け、欧州だけでなく、日本や中国、韓国も一斉に動き始めました。他方、米国ではバイデン次期大統領の就任で化石燃料を重視したトランプ現政権とどのように政策転換するのかが注目されています。

 

豊田氏

 「化石燃料を重視したトランプ政権のもとで州政府などが脱炭素化に取り組んでいます。原子力政策も進めています。バイデン政権になれば、政策転換が急速に進むとはみていません。米議会の勢力図で共和党の影響を考慮すれば、バイデン政権の政策はモデレートな動きが続くでしょう。ただ、米国でも脱炭素化に向けた動きが着実に進んでいくと予想され、日本は米国と協力しながら、イニシアチブをとっていくことが求められます」

 

MP

 国際社会のなかで日本がイニシアチブをとっていけるでしょうか。

 

豊田氏

 「2050年になったとき、私は日本が中心となり得るポジションにいると思います。欧州は再エネ中心になり過ぎています。化石賞というのがありますが、日本にはぜひ『脱炭素化化石賞』を受賞してほしいですね」

 

 

阿部直哉 (「MIRUPLUS」編集代表)

 1960年、東京生まれ。慶大卒。Bloomberg News記者・エディターなどを経てCapitol Intelligence Group(ワシントンD.C.)の東京支局長。2020年12月からIRuniverseが運営するウェブサイト「MILUPLUS」の編集代表。1990年代に米シカゴに駐在。エネルギーやコモディティの視点から国際政治や世界経済を読み解く。

 著書に『コモディティ戦争―ニクソン・ショックから40年―』(藤原書店)、『ニュースでわかる「世界エネルギー事情」』(リム新書)など。