ウランの主要生産国である西アフリカのニジェールに駐留する米軍の撤退が近付いている。米軍はイスラム原理主義武装組織の掃討の拠点としてニジェールに駐留しているが、2023年7月にロシア寄りの軍部によるクーデターで事態が急変した。今週末にも国務省の代表団がニジェールを訪問し、軍事政権側と段階的撤退について協議すると伝えられている。米軍の撤退は「ニジェールのウランをロシアに明け渡すことを意味する」とも指摘され、脱炭素推進で注目されるウラン市場の大きな不安定要素として浮上してきた。

 

 旧フランス植民地のニジェールでは2023年7月26日に軍部によるクーデターが起き、親欧米政権が転覆した。軍政トップのチアニ将軍は3年以内に民政に移管する考えを表明しているが、実権を離す気配はない。

 

 クーデター後、ロシアに接近している軍事政権はまず、フランスとの軍事協定を破棄した。フランスは軍政に正当性はないとして、当初、仏軍のニジェール駐留を続ける姿勢を示していたが、仏軍基地周辺で撤退を求めるデモが先鋭化するなど、フランスへの反感が強まったことから、2023年中に撤退した。

 

 その後はテロ対策を名目に1100人の兵士を駐留させる米軍の去就が注目されていたが、2024年3月に、軍事政権が米軍との軍事協定も破棄したことで、米バイデン政権は米軍のニジェールからの撤退を決めた。

 

 4月25日には駐ニジェール米国大使と現地米軍幹部が軍事政権側と「秩序ある撤退」について協議した。今週末には国務省の代表団がニジェール入りし、段階的撤退の具体案などを軍事政権側に提示するとみられている。

 

 米国にとってニジェールは、西アフリカでのイスラムテロ組織掃討作戦の「最後の拠点」だ。米軍は首都ニアメーと、ニアメーの北東約920キロに位置する砂漠の都市アガデスの2基地に要員を駐留させて、主に無人機(ドローン)による作戦に携わっている。アガデスの基地「ニジェール・エア・ベース201」は、社会からは隔絶された砂漠の中にあり、名目上はニジェール軍の基地だが、当時の親欧米政権の元で米軍が2016~19年に1億1000万ドル(約171億6000万円)の資金を投入して建設した。

 

 撤退は米国の対テロ戦略の見直しを意味する。クーデターによりニジェールでの対テロ作戦は事実上停止しているが、莫大な資金を使って建設した基地でもあり、ニジェールから要員を移動させたくないというのが米国の本音だ。このため、軍事政権と正面を切って対立するのは避けようとしている。

 

 しかし、軍事政権はロシアとのつながりを一段と深めている。4月以降、ロシア軍の輸送機がニジェールに飛来し、軍事、民生物資を輸送している。5月初めには米軍が駐留するニアメーのニジェール軍基地にロシア軍機が降り立ち、米軍兵士のすぐ近くで活動していたことが明らかになった。

 

 ウラン資源をめぐっても緊張が高まっている。ニジェールは世界7位のウラン生産国で、現在はフランスのオラノ、カナダのグローバル・アトミック、中国の中国核工業集団などがウランの生産に携わっている。中でもフランスのオラノは最大の事業規模を誇る。これまでニジェールのウランは主にフランスなど欧州に輸出されていた。

 

 クーデターによる政変があったもののウラン生産には大きな影響はない、とされている。軍事政権の鉱山相が鉱山会社の採掘場を視察して軍事政権への協力を要請するなど、対企業は「ソフト路線」を取っており、鉱山閉鎖などの強硬的な措置はみられていない。

 

 ただ、軍事政権はウランを含む新規採掘免許の発行を一時停止するなど揺さぶりもかけており、現行の採掘免許についても、再調査の可能性があるとの報道もある。

 

 クーデターによりニジェールの国債は債券市場から締め出され、中央銀行の口座も凍結された。西側諸国からの支援も途絶え、国家財政は窮地に追い込まれている。軍事政権にとってはウランなどの鉱物は国家財政を支える切り札でもあり、この先の重要な経済的なパートナーとしてロシアが浮上している。

 

 米国のコモディティ市場では、米軍の撤退は「ニジェールのウランをロシアに明け渡すことを意味する」と懸念の声があがっている。軍事政権が米国との軍事協定を破棄したことが伝った3月中旬には、グローバル・アトミックの株価が1営業日ほどの取引で約30%下落し、その後も回復力が乏しい状態で推移しており、ニジェール情勢がコモディティ市場に与える影響の大きさを物語っている。

 

 軍事政権がウラン300トンをイランに売却するための2国間秘密交渉の存在を5月10日、仏紙ルモンドが報じるなど、ニジェールのウランをめぐる動きはきな臭さを増しており、コモディティ、株式市場の緊張要因になっている。

 


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Taro Yanaka

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趣味は世界を車で走ること。

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