「カーボンニュートラルに向け邁進」とスローガンを掲げる=香港政府関連部門の展示区、26日午後

 

 香港で開かれた環境関連産業の見本市「Eco Expo Asia(エコ・エキスポ・アジア) 2023」が29日、4日間の日程を終えて閉幕した。今年のテーマは「(温暖化ガス排出量を実質ゼロにする)カーボンニュートラルへの飛躍 カーボンゼロ創造への未来」で、出展企業数は300社超と前回(2022年12月)比で17%増えた。日本勢は「ジャパンパビリオン」を設けて参加した。

 

 同見本市は香港貿易発展局(HKTDC)とドイツの見本市運営会社メッセフランクフルト(香港)の共同開催で、香港政府環境生態局が協力。オンラインマッチング「商対易」(クリック・ツー・マッチ)」は11月6日まで実施している。

 

 香港政府は環境関連産業を重要産業の一つと位置づける。環境生態局の謝展寰局長は26日の開幕式典のあいさつで「政府は陸海空で全面的に新エネルギーの利用と供給を促進し、業界のグリーン化をリードしていく」と強調した。

 

 会場は香港国際空港に近い亜洲国際博覧館(アジアワールド・エキスポ)。展示面積の約半分を割いたのは、中国・広東省と香港、マカオで一大経済圏をつくる「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」の展示区だった。

 

 香港勢は政府関連部門がカーボンゼロに向けた取り組みを紹介したほか、香港科学園(HKSTP)からスタートアップ数社が参加。広東省の深圳市や広州市のほかに単独でパビリオンを設けたマカオや中山市は人工知能(AI)使ったIoT 管理設備や最先端の空気浄化技術などを披露した。

 

 会期中は政府当局者や専門家らが大湾区での「ゼロ・ウェイスト」(ごみゼロ)政策の方向性などについて討議する会議を開催。ESG(環境・社会・企業統治)分野への就職や企業の人材育成を後押しする情報提供エリアを初めて設けた。最終日は一般にも入場無料で公開された。

 

グリーン輸送展示区 中国企業が独占 

 

グリーン輸送展示区の様子。商用車や特殊車両が中心だった=26日午後 

 

 今回、目玉の一つとされたグリーン輸送展示区は、大型の新エネルギー車や完全な自動運転ができる「レベル5」の自動運転車などを展示した中国企業がほぼ独占した。

 

 威馳騰(福建)汽車(ウィズダムモーター)は、一際目を引く真っ赤な大型牽引車やごみ回収車など4台を披露。同社は2019年に福建省漳洲市で設立されたスタートアップで、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCEV)の商用車や特殊車両のOEM(相手先ブランドによる生産)を中核事業とし、独自に設計や開発も手がける。

 

 今年6月にはEVモーターズ・ジャパン(北九州市)との間で、EVバス約100台の納入と新規受注・戦略協力に関する合意文書に調印した。納入したEVバスは、2025年の国際博覧会(大阪・関西万博)で運行される予定という。

 

 「主な顧客は先進国・地域の企業だ。水素燃料電池への協力姿勢が強く、水素ステーションのインフラ整備が始まっている」。威馳騰汽車(香港)の担当者はこう説明した。「規格と受注の特徴から、オーストラリアへの展開に最も力を入れている」と語った。

 

 すでに中国本土で自律走行型の牽引車を、豪州向けに燃料電池のトラックとバス、英国と欧州向けにバスとミニバスを納入済み。香港では22年から2階建てEVバスを投入している。車載電池世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)や独自動車部品大手のZFなどが主要サプライヤー(取引先)という。

 

威馳騰の牽引車の前で試乗の順番待ちをする中国本土からのバイヤー=26日午後
 

 このほか、中国のEV商用車メーカー、億達動力科技(Vertec、福建省アモイ市)や、香港のEV設計・開発会社グリーン・モビリティ・イノベーションズ(GMI)は、香港で運行されている公共ミニバス向けバッテリー管理システムやEV充電器などを披露した。Vertecは「レベル5」の自動運転車を香港で初公開した。

 

 ただ、一部の担当者からは香港について、英国統治の名残で香港は左側通行・右ハンドル、中国本土は右際側通行・左ハンドルであること、タクシーやミニバス分野ではトヨタ自動車が牙城を築いており、参入が難しいといった声もあった。

 

 出展の思惑に温度差? 

 廃棄物処理・循環経済の展示区では、老舗から香港地場、中堅、外資系まで関連企業が混在する形となった。会場の中心部に大きなブースを構えた中国国有複合企業、中国光大集団傘下の中国光大環境(集団)の担当者は「国内廃棄物処理事業で当社が最大手だ」と指摘。一方で、江蘇省を中心に揺るぎないシェアを誇るものの「(香港を含む)大湾区では競争が激しく参入は難しい」と本音を漏らした。東南アジアを市場開拓の最大の目標としつつ、環境技術の成熟している日本市場への進出は困難と認めた。

 

 HKSTP展示区に出展していた香港スタートアップの澤浩高純金属有限公司(Achelous)。20年2月設立で少数精鋭ながら攻めの姿勢を貫く。中国本土のレアアース(希土類)・金属加工工場の排水・固形廃棄物の回収や資源リサイクルを手がける。

 

 今回は新たな中核事業と位置づける二酸化炭素(CO2)回収装置をPRした。同装置は独自のイオン交換技術を通じて、室内の空気中に浮遊するCO2を装置内部の樹脂に吸収させ、同時に湿度の変化や加熱により溶液に変換させる仕組みを持つ。

 

 中核メンバーの一人、黄玉梅氏は「この装置を使うと、24時間で約3000グラムのCO2を吸収できる。植樹48本に相当する」と自信を示した。回収された溶液は、処理後に土壌改良剤や建材として再利用できるとした。すでに香港の商業施設で試験運用が始まっており、商用化に向け準備を進めていると補足した。

 

CO2回収装置について説明する澤浩高純金属の黄玉梅氏=27日午後

 

関係者「展示会として方向性見えず」

 もっとも、全体的に展示内容は総花的だった印象だ。初日は香港政府高官らが出席する開幕式典を盛大に催し、中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)がEV向け急速充電スタンドの最新モデル公開セレモニーを行うなど部分的に話題を集めたものの、いまいち盛り上がりを欠いていたことは否めない。

 

 中国本土やマレーシアなど東南アジアからのバイヤーの団体も見かけたが、初日と2日目に限って言えば、平日とはいえ想像以上に来場者が少なかった。関係者からは「昨年より(来場者が)少ない」「目的がばらばらで展示会としての方向性がはっきりしない」といった声も聞かれた。特に鳴り物入りだった大湾区や広西チワン族自治区など中国本土の展示区は閑散とし、訪れる人よりもスタッフのほうが多かった。

 

  

大湾区ゾーンの様子。2日目まで閑散としていた=26日午後

 

 

〈2〉日本勢、「脱炭素」「脱プラ」に商機 に続く

 

(IRUNIVERSE M.Sezaki)