ペルー情勢が一段と緊迫化している。国会の弾劾決議を回避するために大統領令で国会を閉鎖しようとして司法当局に身柄を拘束されたカスティジョ前大統領の支持者が、前大統領の釈放などを求めて各地で抗議行動を繰り広げ、一部が暴徒化している。高速道路や空港など公共施設に重大な影響が生じていることから、カスティジョ大統領の罷免を受けて発足したボルアルテ政権はペルー全土に非常事態を宣言した。カスティジョ前大統領の「強権発動」を「クーデター」と非難した新政権が、発足後わずか1週間で、国民の自由を奪う強硬的な手段に出た。

 

 オタロラ国防相が14日に発表した非常事態令の期間は30日間で、集会・結社の自由や国内通行の自由が制限される。軍による警察への支援を認め、デモ鎮圧の手段を強化した。また、令状なしでの個人宅の捜索なども認めた。夜間外出禁止措置は含まれていない。

 

 ペルーでは銅鉱山会社と地元住民の対立が先鋭化した際などに、地域を限定した非常事態が発令されることは度々あるが、全土を対象にした今回のような規模の非常事態宣言は、左翼ゲリラ「センデロ・ルミノソ(輝く道)」が勢力を強めていた1980年代から90年代初頭以来のことである。

 

 ボルアルテ大統領もこの点を強く意識しており、非常事態の宣言にあたって「ペルーが血であふれることはない。私たちは80年代、90年代を既に経験している。何千もの命を刻んだ、あの痛ましいストーリーに戻りたくない」と話し、国民に冷静な対応を求めた。ボルアルテ大統領は、2026年に予定されている大統領選を2024年に前倒しして実施することなどを表明している。

 

 カスティジョ前大統領は元教師で、労働組合のリーダーだった。貧しい農村の出身で、2021年6月の大統領選では経済的に恵まれない地方の住民や先住民からの熱烈な支持を得て、当選した。決選投票の相手はアルベルト・フジモリ元大統領の長女、ケイコ・フジモリ氏だった。大統領就任後は失政やスキャンダルなどが相次ぎ支持率は急降下したが、社会的不平等の是正を求める貧困層からの支持は根強い。

 

 12月7日に国会で大統領への弾劾決議が可決された際は、首都リマなど都市部を中心に「当然の結果だ」の声が広がったが、その後、地方都市や先住民の居住地などカスティジョ前大統領の地盤で、支持者による抗議活動が強まった。高速道路への障害物の設置や、空港施設の包囲、警察署や裁判所の襲撃など、抗議行動の矛先は多岐に渡っている。

 

 ペルー南東部のアマゾン雨林の中にあるカミセア天然ガス採掘施設は、ペルーの電力供給の要を担うが、ここにもカスティジョ前大統領の支持者が押し寄せ、施設を停止させようとしたという。

 

 クスコでは支持者が道路を遮断し、銅鉱石や食品の輸送ルートを止めている。クスコはマチュピチュ遺跡観光の拠点だが、市内の空港施設は抗議行動で稼働ができなくなり、約3000人の外国人観光客が足止めとなった。南部のアレキパでも支持者が空港の滑走路に侵入し、航空機の発着がストップした。

 

 抗議行動は労働組合や先住民団体の全国組織が支援し、カスティジョ前大統領の即時釈放とボルアルテ大統領の辞任、一刻も早い大統領選と国会議員選の実施などを求めている。事態に乗じて、一部で犯罪組織が破壊工作に加わっていると言われ、デモが暴徒化した地区では略奪を恐れてた商店主が店の営業を見合わせている。デモによる市民生活への影響は拡大している。

 

 12月15日現在、デモ隊と警察との衝突で少なくとも市民8人が死亡した。けがをした警察官も140人以上にのぼり、いつ大規模な衝突が起きてもおかしくない状況だ。

 

 非常事態宣言については、ペルー国民の中に「ボルアルテ政権は対話する前に、力で押さえつけようとしている」との声が強まっている。カスティジョ前大統領が退陣し、副大統領だったボルアルテ氏が電撃的に大統領に就任してからわずか1週間での非常事態宣言だからだ。国際的な人権保護団体アムネスティー・インターナショナルは、非常事態が宣言される前の12月12日に、デモを鎮圧するための「過度な力」の行使がないようペルー政府に求めた。

 

 ペルー最高検は、国家への反逆の罪でカスティジョ前大統領を起訴して懲役10年を求刑するとみられる。ペルー情勢について、米国やカナダ、チリ、エクアドル、ウルグアイ、コスタリカはボルアルテ新政権を支持している。一方、メキシコ、アルゼンチン、コロンビア、ボリビアの左派政権はカスティジョ前大統領を支持する。資源大国ペルーの政変で、米州内の亀裂がさらに深まった。

 

 

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Taro Yanaka

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趣味は世界を車で走ること。

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