米国の中間選挙は、予想されていた共和党の大勝(Red Wave)にはならず、民主党の善戦ぶりが目立った。バイデン大統領(79)は上下両院の選挙結果が確定する前にホワイトハウスで「勝利宣言」をした。仮に上下両院、あるいはいずれかで第1党を共和党に奪われたとしても、その差はわずかだ。共和党の躍進を阻止したことが「民主主義にとって良い日、米国にとって良い日」であると判断した。これにより2024年の大統領選でバイデン大統領が2期目に挑む公算が一段と高まった。

 

 一方で保守層内には、トランプ前大統領(76)に頼った共和党の選挙戦略が間違っていたと指摘する声が強まっている。

 保守系のタブロイド紙ニューヨーク・ポストは11月10日付の1面に、童謡の滑稽なキャラクターと重ね合わせたトランプ前大統領の写真を掲載した。「Trumpty Dumpty」という見出しが踊っていたが、これは英国の童謡集「マザー・グース」に登場する卵が服を着たキャラクター「Humpty Dumpty」をもじった言葉だ。

 「Humpty Dumpty」はずんぐりむっくりで、塀の上に座っている。英語ではこの言葉を「非常に危うい状態」「一度、壊れたら簡単には元には戻らないこと」ことの比喩として使う。

 ニューヨーク・ポストは「Don (who couldn’t build a wall)  had a great fall — can all the GOP’s men put the party back together again?」(トランプは大こけした。共和党の部下たちは党を元に戻せるか)と書き添え、トランプ前大統領が共和党を引っ張っている状態は、もはや党としては危ういことで、このやり方でダメージを受けたら立て直すことは難しい、と主張している。

 

 中間選挙でトランプ前大統領が支持した共和党候補が激戦区で敗退したことが、「Red Wave」を起こせなかった要因であると、一定層の共和党員は考えている。トランプ前大統領が後押しした候補者の中には、言動などに疑問符が付く人がおり、「候補者としての質」の問題は保守層内でも不安視する声があった。「勝利」を逃したことで、トランプ前大統領への不満が鮮明になった。

 

 さらに、選挙後のトランプ前大統領の態度が、一部の保守層を失望させることとなった。トランプ前大統領は、今回の中間選挙のフロリダ州知事選で再選を果たした共和党のデサンティス知事(44)をソーシャルメディアで痛烈に批判した。トランプ前大統領は2024年の大統領選への立候補に意欲を見せているが、デサンティス知事は大統領選の有望な候補として共和党員の期待が高い。トランプ前大統領にとっては最も強力なライバルで、中間選挙が終わり、矛先を「身内」に向けたのである。

 デサンティス知事の名前は英語では「DeSantis」と表記するが、トランプ前大統領は11月10日に発表した声明で「DeSanctimonious」と表記した。「Sanctimonious」は「聖人ぶった」という意味の軽蔑的な単語だ。名前をこう表記し「聖人ぶったデサンティスは、ただの平均的な共和党知事だ」  などと中傷した。

 

 デサンティス知事はフロリダ州ジャクソンビル生まれ。イタリア系の白人で、イェール大学を卒業後、ハーバードのロースクールで学んだ。米海軍に入隊し、イラクでの駐留経験もある。下院議員を経験した後、2018年の知事選で初当選した。大統領を目指す政治家としては完璧な経歴である。

 

 2期目を目指した今回の知事選では、民主党候補に得票率で約20ポイントの大差を付けて勝利した。民主党と共和党が拮抗する代表的な「スイング・ステート」のフロリダ州で、これだけの差が付くことは異例なことで、デサンティス知事の支持の厚さを物語る数字だ。

 

こうした結果を踏まえた上でのトランプ前大統領の知事批判に、保守層からは「さすがについて行けない」との声が上がる。相手を激しく叩いて支持者に訴えるのは「トランプ流」であるが、このやり方にうんざりしている保守層は多く、中間選挙の結果は共和党の「トランプ時代」の終焉をもたらすかもしれない。

 

 話を民主党に戻すと、「年内に80歳になるバイデン大統領で次もいいのか」という考えは、根強くある。「静かに」していたハリス副大統領(58)が出馬に向けた動きを活発化させる可能性はある。今回、2期目の当選を果たしたミシガン州のウイットマー知事(51)も女性のリーダーとしての知名度を上げた。リベラル色を前面に押し出すカリフォルニア州のニューサム知事(55)も今回、再選を果たし、存在感を高めた。左派と穏健派の温度差が激しい民主党は「党内分断」を収拾できるかが、新時代移行への鍵となる。

 

 

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Taro Yanaka

 

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

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 趣味は世界を車で走ること。

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