今、ロシアが、イラン製ドローンを導入するのか否かに注目が集まっている。11日、アメリカのサリバン大統領補佐官は定例会見で、ロシアとイランの接近に関連し、イランがロシアに数百機の軍事用ドローンを売却しようとしていると明かした。ロシアがドローンを欲していることに疑いはないとしても、なぜここにきていわくつきのイラン製ドローンに白羽の矢が立ったのだろうか。

 

 ロシアはドローン運用の面でウクライナに劣後し、煮え湯を飲まされてきた。ウクライナ侵攻当初、ロシア軍がキーウ攻略を目指し進軍していた際、ウクライナ軍はドローンによる監視体制を構築して待ち構えていたとされる。そのため、ロシア軍の砲兵隊がいずれかの場所からウクライナ軍の目標を攻撃すると、ウクライナ軍はドローンを通じ特定した位置へ即座にお返しをすることができたという。攻撃兵器としても活躍し、ウクライナが購入したトルコ製のバイラクタルTB2は、ロシアが誇る装甲車両を多数無力化したと伝えられる。さらに、ロシア側のドローンの拙劣さも明らかになった。ウクライナ軍が撃墜したロシアのドローンの燃料タンクにペットボトルが使われていたと暴露し、日本でも話題になるなど世界中で失笑を買ったのは記憶に新しい。ロシアはウクライナに追いつこうにも、制裁によりドローン技術、また製品の入手が困難になった。頼みは、ロシアに与するドローン大国の中国であるが、DJIのような中国企業さえも、欧米市場でのビジネスに支障が出ることを恐れ、ロシアとウクライナ双方への製品供給を停止すると発表している。プーチン政権は国内で利用可能なドローンは優先的に軍に振り分ける”ドローン供出”とも言えるなりふり構わぬ手段に出たことで、民生用製品も不足し産業にも影響が出ていると、ロシアメディアに報じられた。イランの軍事専門家は、イラン国外で運営されるメディアに公開した論評の中で、ロシアがイラン製ドローンを選んだとみられる大きな理由は、正に前述の制裁によるものだとした。中国企業すら頼りにならない状況で、本体の供与から部品の供給までワンパッケージで提供なイランは、正に今のロシアが求めるものだということである。ロシアはその秘密主義故に、同じく閉鎖的なイランと”親和性”があるとも加えた。さらに重要な点として、イエメンからサウジ北東部への長距離攻撃を成功させた性能にも拘わらず、安いことも指摘した。イラン製ドローンは、同国傘下の武装集団に使わせることで、敵対するイスラエルやサウジなどを牽制する役割を担ってきた。しかし、多くの戦果をあげても、ナゴルノカラバフ紛争で名声を高め販路を広げたトルコ製ドローンと異なり、イランはその国情故にそうはいかなかった。ロシアがイラン製ドローンを正式に購入すれば、さらに多くの国への販売へ先鞭をつけることになる。両国の経済連携強化と同様、皮肉なことであるが、制裁がイランの防衛産業に新たな可能性を与えたのである。

 

 実際に、ウクライナの空をイラン製ドローンが舞うことはあるのであろうか。イランは当初、サリバンが広めた疑惑を払拭しようと努めていた。革命防衛隊系のファールスニュースは17日、イスラエルメディアによる本件に関する報道について、”シオニスト”たちがイランとロシアの関係強化を好ましく思っておらず、妨害しようとしているといった趣旨の論評を公開した。しかし、イランがロシアへドローン売却の準備を進めているとみられる情報は少しずつ出てきた。シリア人権監視団は17日、イラン傘下の武装勢力がドローンの飛行実験を実施したと伝えた。それによると、武装勢力の支配地から発信したドローンはいくつかの標的への攻撃を行った。シリア人権監視団は支配地の防衛力を強化しようとしているが故の行動と指摘したが、時期的にロシアへその性能を見せていたとしても不思議はない。イランとロシアはシリア内戦において共にアサド政権を支える同盟関係にあり、ロシアの関係者がそれを視察していた可能性は十分にある。また、16日にイランに大量のドローンを輸送する能力などないとの分析が報じられると、前述のファールスニュースは17日、イランのドローン空母を誇る記事を英語で公開した。20日には、イラン外務省の定例会見で、ロシアに「技術協力」をしていることが明らかにされ、ドローン売却についても報道官は否定しなかった。一方で、イランはドローン売却による欧米諸国とのさらなる関係悪化を恐れているとみられることや、過去のロシア製兵器の売却契約において引き渡しが履行されていないことによる不信感などから、否定的な見方も出された。しかし、これまでのイランの動きを見ると、当初の”否定”はポーズで、裏では着々と話が進んでいたとみるべきだろう。最初にアメリカが暴露したことの意味も大きい。アメリカはロシアによるウクライナ侵攻の危機が高まっていて今年1~2月に、機密情報を次々と公開する”暴露戦術”でロシアの次の一手を封じようとしてきた。今回も角度の高い情報を得て、ロシアとイランの企みを攪乱する意図があったのかもしれない。ウクライナ侵攻同様、今回も事の運びを少し遅らせることしかできなかったようだ。

 

 欧米諸国はウクライナ侵攻に際しロシア対世界という構図を作りたがっていたが、欧米諸国と対立する国々はロシアに与し、多くの途上国は中立を保つという東西・南北対立の様相を呈している。こうした中で、同じく孤立するイランは、核合意再建に向けて欧米と交渉を続けているとはいえ、上海協力機構への正式加盟、BRICSへの加盟申請など中ロへ傾斜している。イラン製ドローンを巡る騒動は、戦況の行方など軍事的な面を注視するより、ロシアを巡り新たな経済圏、供給網が生まれつつあることに着目すべきだ。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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