先進7カ国首脳会議(G7サミット)が28日、閉幕した。ロシア産石油の価格に上限を設ける制裁を検討することで合意した一方、フランス側からイラン、ベネズエラなどの原油市場への復帰という、今後の燃料価格の行方について重要な提案も出た。

 

 日本の岸田首相も参加したG7サミットが28日、閉幕した。最大の議題は、ウクライナにまつわる問題であり、ロシア産石油の価格に上限を設ける制裁を検討することで合意した。対ロシア制裁強化とエネルギー確保を両立させる苦肉の策であることが伺える。対ロ制裁について、各国の立場には隔たりがある。米国はロシアの化石燃料に頼る必要がなく、戦争が続けば続くだけ自国製の兵器の活躍の場が広がり、それは巡り巡って軍需産業の売り上げ拡大、雇用の創出という形で戻ってくる。一方、ロシア産化石燃料に依存してきたフランス・ドイツなどは、できることならロシア・ウクライナ双方とも矛を収め、安価で安定したエネルギー供給が復活してほしいと内心思っている。こうした中、ロイター通信によると、フランス政府高官がG7開幕中の27日、イランやベネズエラといった国々の原油市場への復帰を含め、エネルギー確保のためにあらゆる選択肢をとる必要があると発言した。制裁対象国イランの化石燃料も活用しないと、ロシアを締め上げる前に自国が干上がってしまうという悲鳴にも聞こえる。一方で、G7サミットでも議論されたように、核合意再建のための努力も進められている。G7サミットに先立つ24日、欧州連合(EU)はボレル上級代表のイラン訪問に合わせ、「この外交的機会を活かしてほしい」と呼びかけた。フランスとしては、原油輸出再開を核合意交渉の材料にもしつつ、燃料価格の抑制にも期待感を出そうとしているとみられる。加えて、ウクライナ問題で存在感を示せず、総選挙で与党連合が敗北し、国際的にも国内的にも低下する求心力を取り戻したい、マクロン大統領及び側近らの思惑もあるだろう。

 

 イラン側の最大の関心事はやはり核合意再建の行方についてだ。革命防衛隊系メディア・ファールス通信は、このフランス政府高官の発言について取り上げたが、原油輸出再開への期待よりも核合意交渉の行方を占う内容で、「未だ、交渉に前向きではない」と米国を批判した後、前述のEUの動向に触れていた。イラン側もまた、石油を欲する欧米の足元を見る一方、国内の経済状況が同国に妥協を迫る可能性もある。イラン反体制派組織ムジャヒディン・ハルク(イスラム人民戦士機構、MKO)は退職者らの抗議運動など、連日、経済状況の悪化に起因する抗議運動の情報を国外に拡散している。また、英国の中東専門サイトによると、イラン国内では現在、生活苦による窃盗、強盗などの犯罪が急増しているという。制裁による悪影響のうち大きなものが、輸入品の高騰ないし途絶だ。医薬品の不足は多くのイラン国民に深刻な不安を与えている。石油制裁解除は、その先の様々な物品の輸出禁止撤回にもつながり、国民生活の安定にもつながるだろう。フランスの提言は、ここ数年相次ぐ抗議運動で動揺する神権体制の権威を修復したいイラン指導部の利害とも一致する。

 

 欧米は国際社会に対ロ制裁で結束するよう呼びかけているが、先進国と途上国の間で大きな分断があるのが実情だ。ロシアもそのことを見すかし、歴史的には確執もあるイランを含む、欧米と対立関係にある国々との関係強化を図っている。イランは28日、G7閉幕と時を同じくして、中国、ロシア、ブラジル、インド、南アフリカで構成する新興5カ国(BRICS)への加盟申請を行った。今回の提言は現実のものとなるのか、その場合、イランを中ロブロックに追いやることを防ぎ、また、燃料価格の沈静化に貢献するのか注目される。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。