米ロサンゼルスに西半球の首脳が集まる第9回米州首脳会議のプレイベントが開かれていた6月7日、南米ボリビアの首都ラパスから、気になるニュースがもたらされた。リチウムの本格採掘のために手を組む外国企業の選考を行っているボリビア政府が、最終選考に残った8社のうち2社を対象から外したというのだ。

 

 ボリビアのモリナ・エネルギー相が記者団に明らかにしたが、その場では外された2社の名前は公表されなかった。8社の中には米国の2社が含まれていたため、米国のエネルギー関係者らは気をもんだ。

 

 翌日の8日、バイデン大統領はホスト国のトップとして各国首脳らを出迎えた。中南米・カリブ海諸国との新しい経済的な枠組みを整備することが、今回の会議の中心的な議題だ。しかし、出鼻をくじくように、対象から外された2社のうち1社は米国企業だったと、ロイター通信などが伝えた。

 

 ボリビアは電気自動車などに搭載され電池の原料となるリチウムの確認埋蔵量が世界第1位である。しかし、ウユニ塩湖などリチウムが眠る地区が地理的にも地層的にも採掘・製造に手間がかかる上に、複雑な政治状況などから、本格採掘に至っていない。ボリビアでは、私企業による資源採掘が法律で厳しく規制されているため、採掘に必要な技術が外国企業によって持ち込まれることが難しい。

 

 グリーンエネルギーに世界が大きく舵を切る中で、リチウム価格が高騰しているというのに、ボリビアは自国資源を活用して国を潤すことができないでいる。

 

 アルセ政権はカリスマ政治家・モラレス元大統領の流れを組む社会主義政権だが、こうした状況を打開するため、法律で唯一、リチウムの採掘が認められている国営リチウム公社(YLB)と外国企業を提携させて商業ベースでの本格採掘を実現させようとしている。最終選考に残った外国企業8社は、米国の新興企業のEnergy XとLilac Solutions、中国のCATLとFusion Enertech、TBEA Co Ltd、CITIC Guoan Group Co、ロシアのUranium One、アルゼンチンのTecpetrolだ。

 

 このうち、今回、選考から漏れたのは米国のEnergy XとアルゼンチンのTecpetrolの2社。その理由は明らかにされていない。

 

 ボリビア政府は残る米国1社、中国4社、ロシア1社の6社の中から、1社または複数社を選びYLBと提携させる方針だ。選考は5月中に終わる予定だったが、作業が長引いている。ボリビア政府は6月15日に最終結果を発表するとしている。

 

 ボリビアのリチウムをめぐる動きが、今回の米州首脳会議と時を合わせて表面化してくることが、なんとも皮肉である。

 

 以前、このコラムでも紹介したが、米州首脳会議は1994年以降、3、4年の間隔で開かれているが、現在は北、中、南米とカリブ海諸国の全首脳が出席することが原則となっている。しかし今回、ホスト国の米国は「民主主義ではない」との理由でキューバ、ニカラグア、ベネズエラに招待状を出さなかった。バイデン政権の決定に不満を示したメキシコのロペスオブラドール大統領は会議をボイコット、外相の出席にとどめた。ボリビアのアルセ大統領も同様の理由で出席しなかった。

 

 中国やロシアがラテンアメリカへの影響力を強める中、バイデン政権はトランプ前大統領時代に疎遠になったラテンアメリカとの関係改善と経済関係の強化をしようとしている。今回の会議の最大の目的はそこにあるが、一筋縄では行かないことを思い知らされた。ボリビアで米国企業1社が外されたことも、厳しい一撃となった。

 

 米州首脳会議では、もうひとつ、難民問題が大きなテーマとなった。貧困や暴力から逃れるためラテンアメリカから米国に亡命を求める人々の波は後を絶たない。難民を生まない社会を作ることがラテンアメリカの差し迫った課題である。各国とも難民を減らすために協力することで一致しているが、一枚岩には到底なれないのが現実だ。

 

 難民を数多く生み出しているグアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの中米3カ国の大統領も米州首脳会議への参加を見合わせた。表面上の理由は3カ国とも異なるが、難民問題でリーダーシップを示すことができないバイデン政権に協力する気にはなれない、という意思を示すことが欠席の最大の狙いだと分析する専門家もいる。

 

 この3カ国は貧困や暴力、汚職にむしばまれており、中米の「北部三角地帯」と呼ばれている。メキシコを加えた4カ国からの難民は、米国への難民の90%にのぼるとの分析もある。

 

 この4カ国のトップがいずれも米州首脳会議を欠席したことは、難民問題について協議する以前に、「何の進展もなし」という結論を世界に示したことに等しい。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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