ロシアのウクライナ侵攻開始から3カ月以上が過ぎた。戦線が膠着状態に陥りつつある中、欧米が主導する対ロ制裁は、停戦へ即効性のある効果が出ていない現実があるものの、着実にロシア経済の基盤を蝕んでいる。先端技術へのアクセス阻止など世界経済からの排除の動きは、ロシア経済を革命前後のレベルにまで戻そうとしているかのようにさえ見える。一方、ロシアとしても戦費を稼ぐために、あの手この手で制裁破りを試みている。こうした中で、ロシアは、同じく欧米から厳しい制裁を受けるイランの教訓から生き残る手段を学んでいるとされ、急速に接近している。

 

 アメリカ財務省は25日、ロシアが裏から支援する革命防衛隊の対外工作部隊「ゴドス」の石油密輸・資金洗浄を阻止するため新たな制裁を科すと発表した。新たな制裁では、ロシアのエネルギー企業などが対象となり、ゴドスの資金洗浄を支えているとの疑いをかけられている。さらに、アメリカ財務省は、ロシア政府や国営エネルギー企業ロスネフチが、イラン産石油の欧州市場への密輸に大きな役割を果たしているとしている。つまり、イラン産石油がロシアに移送され、ロシア産のラベルを貼られ欧州各国へ供給されているということだ。今、欧米諸国ではロシア産石油禁輸の話も持ち上がっており、対イラン制裁破りに公然と加担することは、ロシア産石油禁輸の動きを早めるだけとも言える。しかし、それがすぐに実行に移せないことをプーチンは計算に入れつつ、制裁対策の"先輩"イランと組むことを選んだ。

 

 25日、ロシアの副首相が「エネルギー代表団」を率いテヘランを訪問、イランとエネルギーを中心に経済面で広範な協力関係を構築することを確認したと伝えられた。ロシア側の発表によれば、イラン訪問の狙いは、ガスと石油の交換にあるという。つまり、前述の制裁破りを大々的にやろうという、両国による欧米主導の経済制裁への宣戦布告だ。ロシアは、イランの制裁破りネットワークと自国のそれを結合しようとしているともみられる。こうして、先ほどのような企業などの"出口"をいくつか潰されても、全体像を把握しにくい地下経済が生じつつある。

 

 公然とロシアの暴挙、その偽りの大義を支持するのは、ロシアに大恩があり、その後ろ盾が国家の存立に不可欠な北朝鮮、シリア、エリトリアなどの僅かな国だ。ただ、欧米に煮え湯を飲まされてきた国々にとっては、ロシアを支持せずとも、ロシア排除にやっきになる欧米を見て反撃の好機と捉える現実がある。一方、アメリカにもイランを引き寄せる手があった。バイデン政権は、トランプ政権が一方的に破棄した核合意再建に意欲を見せており、この機に交渉を進めることもできたはずだ。また、制裁解除となれば、イラン産石油はロシア産石油など化石燃料の代替手段になり得た。ただ、イランの対米不信は根深く、アメリカも重い腰を上げることなく同国をロシアの側へ追いやった。

 

 これからは産地偽装された化石燃料が出回るようになるのだろうか。今後のエネルギー価格の行方を占うには、これらの国々による制裁破りの動きを追う必要がありそうだ。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。