豪州では5月21日に行われた総選挙で労働党が勝利を収め、スコット・モリソン(元)首相率いる与党・保守連合からの政権交代が決定した。新首相には労働党の党首アンソニー・アルバニージー氏が就任。また、気候変動への関心を全面に打ち出していた緑の党や無所属候補への支持が大幅に拡大したことも今回の選挙で見られた特徴であった。豪現地報道では、今回の政権交代に伴って予想される資源・エネルギー業界への風向き、政策の変化などが特集されている。

 

 5月24日の豪ファイナンシャル・レヴュー紙は、Quinbrook Infrastructure Partners社のDavid Scaysbrook氏の発言として、長期投資に必要な確実性を提供する規則が整備される限り、脱炭素化目標達成のため、豪州の電力・産業部門に機関投資家の資本が大量に流入することになるとの見解を紹介している。同氏によれば、これまではモリソン政権下で豪州の低炭素インフラや再生可能エネルギー関連のプロジェクトはなかなか進まなかったというが、今回の政権交代で、こうした状況が一変する可能性が高いとして期待を寄せている。

 

 なお、労働党の公約では、2050年までの排出量ゼロ達成が掲げられており、また、2030年時点の目標としては43パーセントの削減が設定されている。再生可能エネルギーによって生産される金属であるグリーンメタル生産への投資、電気自動車の低価格化や減税措置、電力網の改善、コミュニティバッテリーやソーラーバンクの全国設置などが政策として掲げられている。

 

 ただし、豪ABCニュースは5月25日、多くの豪州大手企業らの2030年目標はこれを下回るものであることを指摘している。例えばカンタス航空は、2030年までに純排出量を25パーセント削減することを目指している。同社CEOのAlan Joyce氏はABCニュースに対して、「我々は旅行の重要な部分を維持でき、国内への投資も維持するペースで動いていることを確実にする必要があります」、「あらゆる産業が同じタイムフレームで同時期に脱炭素化できるわけではありません。それは承知の事実でしょう」と述べているという。

 

 一方では、新政府の政策に沿う目標を設定したいと表明している企業もあるようだが、同紙によれば、業界団体からは目標達成を急げば企業は“転びかねない”と指摘する声もあるとのこと。実行可能な時間軸の設定が求められるとされている。

 

 再生可能エネルギーに関して、労働党からは、普及率を現在の約30パーセントから2030年までに最低80パーセントまで引き上げるという目標が示されている。前述したScaysbrook氏によれば、これは国の再生可能エネルギー発電容量をわずか8年間で3倍にする必要があることを意味するという。グリーン・スチール、グリーン・アルミニウム、グリーン燃料などのプロジェクトを通して産業の脱炭素化を始める大きな機会であり、長期的なグリーン輸出の機会でもあるとのこと。

 

 電池製造業に関しては、豪州初の国家電池戦略として、豪州産電池のための商業施設を設立するという興味深い公約も見られる。バナジウム、コバルト、リチウム、そしてその他の重要鉱物など原材料が豊富な豪州では、自国で使用するバッテリーを製造し、また世界中に輸出することで雇用も創出することができるはずであるとのこと。これまでの自由党政権下では、世界の電池生産量のわずか0.5パーセントしか豪州では生産されていなかったと述べられている。ちなみに、この国家電池戦略の舞台に選ばれているのはQLD州。州政府と提携し、豪州製電池地帯を創設するとされている。

 

 

(A. Crnokrak)