鉱山会社と徹底抗戦、超大国・米国に「ノー」――。新型コロナとウクライナ危機で混乱するラテンアメリカ社会では、強い立場の相手に盾突く構図があちこちで見られる。

 世界を代表する銅鉱山であるペルー南部のラスバンバス銅山の施設内に、地元先住民が入り込んで操業が停止している問題は、先住民と政府・銅山会社との協議が決裂し、泥沼化してきた。

 

 このコラムでも何度か紹介したが、世界の銅生産の約2%を担うとされるラスバンバス銅山の操業停止は、マーケットへの影響も大きい。操業停止による損失は1日当たり約1000万ドル(約13億円)にのぼるとの試算もある。ラスバンバス銅山は中国国営企業のオーストラリア法人であるMMGが所有しており、銅の価格が高騰する中で、関係者のいらだちはピークに達している。

 

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 先住民とペルー政府・MMGとの協議は5月10日に開かれた。先住民側は政府が周辺地域に出した緊急事態宣言の解除を求めた。緊急事態宣言下では市民集会や抗議行動が法律で禁じられているからだ。しかし、ペルー政府・MMGは、まずは先住民側が銅山施設内での抗議行動を止め、操業再開の環境を整えることを約束するべきだと主張した。

 先住民側はこれに応じず、2時間ほどの協議は物別れに終わった。

 

 協議には、ラスバンバス銅山に住民が入り込んだフエラバンバとウアンクイレのコミュニティーのほか、プママルカ、チラ、コアクエレ、チュイクニの計6つのコミュニティーの代表が出席した。

 協議後、フエルバンバ・コミュニティーのエディソン・バルガス氏は「我々の権利を交渉の材料にすることはできない」と語り、緊急事態宣言が解除されない限り、今後の協議には応じない姿勢を強調した。

 

 ラスバンバス銅山を巡っては2016年の操業開始以降、MMGによる一段の資金還元を求める先住民が、銅鉱石を運搬する道路をブロックするなどの抗議行動を繰り返してきた。このため銅山はしばしば操業停止を余儀なくされた。4月14日には、銅山が操業を始める前に同地に居住していた先住民ら約130人が銅山施設内に入り込んだ。

 

 MMG側は4月末に先住民の強制退去に踏み切ったが、執行官の中に警察官の制服を着たガードマンらが含まれていたため、先住民側は猛反発した。ペルー政府によるこの地域への緊急事態宣言の発令が、強制退去とほぼ同時だったこともあり、先住民側の怒りは増幅した。

 

 MMG側は、先住民が移住する際の補償などは8割ほど完了し、残りについても履行に向けた手続きが進んでいるとして、これ以上の要求には応じない姿勢だ。

 先住民側と政府・MMG側の溝は深まるばかりだが、操業再開の見通しが立たない中、ペルー政府の仲介能力のレベルの低さを問題視する声が高まっている。

 現職のカスティジョ大統領は極左で、地下資源から得られる利益を先住民らに多く還元することを公約の中心に掲げて当選し、昨年7月に就任した。大統領就任後、気を良くした先住民は各地で資源開発会社への抗議行動を強めた。

 

 しかし、先住民が期待したほど資源開発会社との交渉は前進しなかった。カスティジョ政権は国家財政を支えることを優先し、各地の鉱山を正常化するため、緊急事態を宣言して事態を収束させる手法に出た。

 先住民はカスティジョ大統領に失望し、資源開発会社との間の仲介に入った政府に盾突くようになった。

 

 ラスバンバスでの動きは社会の根底での抵抗だが、ラテンアメリカでは国際政治の世界でも「強者」に盾突く動きが目立っている。

 米国のロサンゼルスで来月6日から開催される予定の米州首脳会議をめぐり、ブラジルとメキシコ、ボリビアがボイコットの動きを見せている。米州首脳会議は北米、中米、カリブ海、南米の西半球の首脳が集まる会議だ。1994年以来、ほぼ3年に1度のペースで開かれている。今年は9回目で米国がホスト国だ。

 

 米州首脳会議は創設以来、キューバ以外の国がすべて参加して開催されてきた。そのキューバも2015年から参加している。2018年のペルーでの会議に米国のトランプ前大統領が欠席したことなどがあったが、首脳会議は西半球のすべての国が集まることが「原則」のようになっている。

 

 ところが今回、バイデン政権がキューバとニカラグア、ベネズエラの3カ国を招待しない方針を示した。3カ国とも米国との関係がぎくしゃくしているからで、「民主国家でない国は招かない」という姿勢だ。

 ブラジル、メキシコ、ボリビアが会議ボイコットの動きを見せたのは、米国の方針への抗議で、超大国の米国に盾を突いた形だ。カリブ海の小国、アンティグア・バーブーダも米国の方針に不満を表明している。

 バイデン政権はまだ会議の招待状を発行していない。3カ国を招待から除外するかは最終的に決めていないが、ラテンアメリカの盾の突き方はバイデン政権にとって想定以上のものだったようだ。

 米州首脳会議では地域経済の連携も大きな議題となるが、ラテンアメリカ最大の経済大国ブラジルと第2位のメキシコがボイコットしたら、会議を開催したとしても中身がなくなる。盾突くラテンアメリカに米国がてこずっている。

 

 

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Taro Yanaka

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 趣味は世界を車で走ること。

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