世界の投資家の視線がラテンアメリカに注がれている。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、サプライチェーンの目詰まりなど世界が混乱する中、地下資源や食料などの国際商品価格が急騰しているからだ。コモディティーの産出元であるラテンアメリカの株式は、低迷する世界の主要市場を尻目に年初から上昇し、グローバルマーケットでは「勝ち組」と言われ始めた。

 

 ただ、このコラムでも再三、伝えているようにラテンアメリカでは急速なインフレで生活苦に陥った市民が各地でデモを繰り返し、社会不安が広がっている。マネーマーケットへの資金流入は貧富の差の拡大につながりかねず、地域の安定に直結するとは限らない。

 

 指数算出会社MSCIのラテンアメリカ株指数は今年第1四半期(1~3月)、26%も上昇した。これほどの好スタートを切ったのは、ラテンアメリカが好景気だった1990年代初頭以来のことである。

 

 同じ時期、米国株指数は4.9%、欧州株指数は6.6%、全新興国株指数は7.4%と、いずれも下落していることを考えれば、目覚ましい数字だ。

 

 国別で見てもブラジルの指標銘柄指数はドルベースで34%以上の上昇、チリとコロンビア、ペルーが20%以上の上昇となっている。

 

 ラテンアメリカは新型コロナウイルスの感染拡大で経済的に大きなダメージを受けた。感染拡大が始まった2020年の同指数は前年比で13%以上の下落、2021年も同7%以上の下落だったので、ラテンアメリカ経済は今年になって局面が大きく変わっていることは明らかである。

 

 株価の上昇はラテンアメリカの通貨高にもつながっている。年初に比べブラジル・レアルは17%、コロンビア・ペソは7.5%、ウルグアイ・ペソは8%、チリ・ペソは4.4%、メキシコ・ペソは2.5%、それぞれ対米ドルで価値を高めている。

 

 ロシアのウクライナ侵攻の影響で資源価格が上昇した。これは豊富な資源を持つ中南米の通貨が買われる確固とした土台となっている。

 

 さらにインフレ対策としてラテンアメリカの主要中央銀行が利上げしていることも、通貨には追い風となっている。

 

 米連邦準備制度理事会(FRB)は3月に利上げし、世界的にはドルに資金が流れている。この影響で日本円は売られ急激に円安が進行している。円のみならず、金利格差の拡大で深刻な通貨安が起きる懸念が世界に広がっているが、中南米については話が別だ。

 

 より生活に近い分野でもラテンアメリカは有望市場だ。ベンチャー・キャピタルや電子商取引、組み込み型金融、ペット保険など、幅広い分野で資金の流れがラテンアメリカに向かっている。

 

 ラテンアメリカに向けられる投資家の視線は、今後しばらくはポジティブな状態が続くとみられる。西側先進国の新型コロナ対策で膨らんだマネーは、世界的には行き場がない状態で、ラテンアメリカは格好の投資先だ。インフレの拡大による社会不安があるにもかかわらず、さらなる資金がラテンアメリカに流れ込んで来ることになりそうだ。

 

 そんな中で、マーケットが一挙手一投足に注目しているのが、ペルーのラスバンバス銅鉱山の動きである。世界の銅生産量の約2%を産出する巨大銅鉱山で、以前このコラムでも伝えたが、これまでも度々、先住民による銅鉱石の輸送ルート封鎖が原因で、断続的に生産の中止を強いられていた。

 

 ラスバンバス銅鉱山は、中国国有の金属大手企業である中国五鉱集団のオーストラリア子会社MMGが所有している。先住民は銅産出による収益を地域に還元するように求め、ペルー政府の仲介でMMG側と協議していた。直近の交渉がまとまる方向となり、昨年末からの道路封鎖は解除され操業を再開していたが、4月14日、ラスバンバス銅鉱山に近い地域に住むフエラバンバコミュニティーの先住民約130人が施設内に入り込んだため、再び操業がまたストップした。

 

 施設内に入り込んだ先住民はラスバンバス銅鉱山が操業を開始する前に、この地に居住していた。11年前に移住させられたが、銅産出による利益が十分にコミュニティーに還元されていないことへの抗議行動として施設内に入り込んだという。

 

 MMG側は、移住の際の合意事項はすべて履行しているとして先住民の抗議行動に不満を募らせている。履行の証拠となる関係書類をペルー政府に送付し、先住民と交渉することを拒否している。

 

 世界ナンバー2の銅生産国であるペルーでは、ラスバンバス以外でも銅鉱山をめぐり鉱山側と先住民との対立が各地で起きている。グリーンエネルギーには欠かせない銅の安定供給に黄色信号を灯すことにもなりかねず、ラテンアメリカへの資金の流れにも大きな影響を与えかねない。

 

 新型コロナ、ロシアによるウクライナ侵攻で混沌とする世界経済は先の予測が全くできないが、資金の流れと社会の安定は必ずしも同一ではないという世界経済の新しい側面を、現在のラテンアメリカ経済が示している。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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