ロシアのウクライナに対する軍事侵攻も約 2 か月経過し、まだ戦闘が続いています。

 

 このため、ロシア産の原油等エネルギー資源の供給停滞への懸念を背景に原油価格は急騰後も WTI ベースで 100±10 ドルの範囲で上下動しています。戦争当事国ロシアとウクライナは世界の穀物輸出の内、合計で小麦が 3 割、トウモロコシが 2 割を占めますからこの影響も大きく穀物価格を引き上げています。

 

 

NY原油相場の推移($/Barrel)3か月

グラフ

 

 

 但し、新たな原油施設の破壊や欧州での戦闘拡大が無ければ、原油価格の上昇は一巡と見て良いと考えられます。まず、北半球の不需要期に入っていくこと、更に非OPEC、特に、シェール・オイルの生産が緩慢ながら拡大していくことがその要因です。

 

 EIA(米国エネルギー情報局)4 月発表の見通しによれば、全体では小幅の余剰が継続する見込みで、3 月の実績見込みでも生産量と消費量では約 1 百万バーレル/日の余剰としており、今後も 50〜70 万バーレル程度の生産超過が続く見通しです。

 

 この状態が続くようなら、インフレ懸念に油を注ぐ事態は可能性として低いと判断されます。

 

 又、上昇してきたエネルギー価格の現水準は、その物価波及効果を通じて需要を抑制します。

 

 4月 19 日発表の IMF の世界経済見通しでは、2021 年 10 月発表の 2022 年世界の成長率は 4.9%の見通しでしたが、直近の改定値は 3.6%です。米国を例に取ると3.7%の成長予想ですが、英国エコノミスト誌の 4 月における同予想は 3.0%で、より厳しく見ています。まだ下方修正の過程と考えられ、原油の需要予測も下方修正されるものと見られます。

 

 

図

 

 

 米国企業の方でも、米国の PMI の減速に現れているように、上場企業の利益拡大に鈍化の気配が出始めました。世界景気の先端を走っていた米国企業ですが、S&P500 の 12 カ月先の一株当たり利益予想(インデックスに準拠したポイント換算)では、3 月末では 226 ポイント、4 月 15 日時点で 224 ポイント、NASDAQ100 では同様に 570 ポイントから 559 ポイントに下がっています。2020 年 6 月末のコロナ・ショック時の最悪期から一本調子で回復してきた企業業績もさすがに頭打ちの兆候があります。株式市場は大きく下落していないものの、足元、上昇モメンタムが弱まっているのが、金利上昇に加えて、企業業績の強気機運が変化している点も見逃せない要因です。

 

 また、市場の将来の金利水準の折り込み度合いで見ますと、米国債 10 年利回りも3%手前にて頭打ちの状況です。3月のFOMCでは、2023年末の政策金利見通しを2.75%としましたが、市場金利は概ね同水準を織り込んだと見てよいでしょう。アトランタ連銀が発表している市場の期待インフレ率も3%手前で頭打ちになっているのも一つの傍証です。

 

 

為替相場の推移(円ドルTTS)20年

グラフ

 

 

 一方で、金利に連動していた為替はやや独自のドル高を続けています。戦闘地域に至近のユーロが売られるのは当然ですが、それ以上に円は対ドルで大きく売られています。1 日に 2 円も動くという異常な変動性でかなり投機的になっていることは事実です。

 

 今回は政府日銀が試されている訳です。

 

 テーマは米国等の金融引締と日本の金融緩和継続とのギャップを「攻める」ということに尽きます。現状、金融緩和拡大を行っている中国元は昨年末から 4 月 19 日まで 0.4%しか対ドル減価していませんが、緩和維持という日本円は 11%超減価しています。因みにユーロは同期間 5%程度の減価に止まっています。

 

 実は上記テーマはある種の「攻める」ための「結論ありき」の理由付けという面もある訳です。米経済も上記のような曲がり角である可能性が出てきている以上、楽観的にドルを買い続けるのも難しくなると見られます。

 

 従って、ドル高の反動もいずれ出てくる可能性があります。この点には注意が必要です。

 

 米国に続く GDP 第 2 位の中国もゼロ・コロナ政策による経済活動の制限(上海の封鎖等)と企業債務の整理に伴う景気の調整から、減速傾向が続いており、欧州・日本も企業・家計共に停滞感の強いマインド指標であるのが現実です。モノ価格の変化を通じた、経済面での現状の変化をよく見極める時期に入ったと言えます。

 

 

米国の期待インフレ率

 米国に於ける期待インフレ率については、複数の計測データがあります。

 

 まず、セントルイス連邦銀行が発表している市場の金利状況から期待インフレ率を推定しているものがあります。これは日次で更新されます。更に、クリーブランド連邦銀行が発表しているデータは市場金利に加えて経済状態の数値、サーベイの結果等を要因として加えた数字で月次で更新されます。

 

 次に掲げたグラフは、前者は期待インフレについて 4 月 19 日まで(10 年国債は 20日まで)、後者は 4 月発表分までのデータとなっています。

 

 前者では、レポートで触れましたように、3%が上限の抵抗ラインになりつつあります。後者は 1 年の期待インフレ率が足元の物価上昇を織り込んで 3%水準を超えていますが、5 年・10 年はまだ 3%まで距離があります。確かに期待インフレは上昇していますが、市場の織り込みと比べると経済状況を織り込んだ指標の方が絶対水準は低い訳です。それだけ市場の織り込みが早期に行われたとも言えます。

 

 

グラフ

 

 

グラフ

 

 

(金融アナリスト川上敦 編集IRUNIVERSE)