調べたのは、同大学院のジェフリー・ゾネンフェルド教授と彼の研究仲間、経済・経営の専門家、同大と連令する非営利組織の経営幹部研修機構に参加する学生らで構成するチーム。ロシアの侵攻直後の2月下旬から世界のロシア進出企業1000社超を対象に追跡調査を開始した。最初は60~70社が撤退や縮小を表明していただけだったという。評価の仕方は当初は単に「撤退」か「残留」の2分類だったが、今では大学などの評価方法にならい、撤退の徹底度に従ってA~Fに分けている。大まかにいえばA=最優、B=優、C=良、D=可、F=不可という意味合いだ。同教授は「経営と社会的責任」といったテーマで企業の果たすべき社会的役割についての論考や活動で知られ、今回の調査もその延長にあり、AからFの評価には国際法違反で理不尽なロシアの侵略に加担するのか否か、といった視点が色濃く反映されている。同教授の言動は多くの企業のトップや政権にも影響力があり、この評価リストにどう載せられるかに神経をとがらせている経営陣も多いという。

 

 リストは、同大学のサイト(Over 750 Companies Have Curtailed Operations in Russia—But Some Remain | Yale School of Management)に評価ごとに分類して掲載され、会社名や国名から検索できる形になっている。リストは「撤退するか活動を減らすという要請にたがえてロシアでの事業を通常通り継続する会社」の「F評価」から始まる。全部で194社。このうち日本企業は9社だった。評価の妥当性をどう受け止めるかは別として、リストには「Denso」「Itochu」「Mitsui」「Mizuho Financial Group」「MS & AD Insurance Group」「Nippon Telegraph and Telephone Corporation」「Pilkington」「TEPCO」「Toyota Tsusho」と 記されている。

 

 一方、リストで最後に載せられている「A評価」は「明快な遮断―外科的除去、切除をし、ロシアとのかかわりを全面的に停止ないしは完全に撤退する会社」として289社を挙げている。うち日本の企業としては「ENEOS」「Mitsubishi Electric」「Mitubishi UFJ Financial Group」の3社が記されている。

 

 この間に「新規の投資や事業展開などを保留するものの一定の事業は継続する会社」=「D評価」が世界全体で137社(うち日本は4社)、「現行の業務を相当量減らすが、何らかの形でビジネスを続ける会社」=「C評価」が世界で99社(日本は4社)、「一時的にほぼ全部の業務を止めるが、再開の選択肢は残しておく会社」=「B評価」が世界で360社(日本は21社)ある。

 

 日本の「継続」=「F」は他国と比べて多いのか少ないのか。リストを調べると「F」が最も多いのが経済制裁に同調する気配のない中国の41社。「撤退」の「A」もゼロで、やはりというべき結果ではある。対ロ制裁に消極的と見られるインドも「F」は17と多い。こちらも「撤退」の「A」は1社だけだった。エネルギーを中心にロシアとの取引が大きいドイツを見てみると、「F」は日本と同じ9社。ただ、こちらは「A」が日本の5倍の15社あった。EUの主要メンバー国であるという立場が影響しているのかもしれない。この調査のおひざ元のアメリカはというと、「A」が110数社ある一方で「F」はインドより多い20社あった。

 

 

(IRuniverse 阿部治樹)