先行き不安を抱えるロシア進出企業のロシア離れも

 日銀は4月12日、国内企業物価指数(2022年3月速報)を発表した。総平均で前年同月に比べ9.5%上昇し、品目種類別ではスクラップ類が39.3%、鉄鋼が27.9%、石油・石炭製品が27.5%と高い伸びを示し、木材・木製品は58.9%で突出していた。2月の総平均9.7%に次ぐ高い上昇率だ。ロシア軍によるウクライナ侵略が招いた資源価格高騰が反映したのは間違いない。その火元となった戦争の終息が見えず先行き不安を抱えるロシア進出企業のロシア離れも加速しそうだ。

 

グラフ 日銀のデータによれば、指数が前年同月を上回ったのは昨年3月から13カ月連続。2月まではコロナ禍や天候不順などの影響によるものだが、3月以降はそれにウクライナ危機が加わり、指数を下げる要因を吹き飛ばしてしまったと考えるのが妥当だろう。上に挙げた品目種類のほかに2ケタの上昇率を示したのは非鉄金属が23.5%、化学製品13.2%となっている。社会全体のインフラである電力・都市ガス・水道をひとまとめにした指数では実に30.3%もの上昇率となっている。(左:国内企業物価指数の推移。日銀プレスリリースから)

 

 こうした状況が今後も続くと予想させるデータが帝国データバンク(TDB)の調査でも示されていた。同社が4月1~5日に行った「企業の今後1年の値上げ動向」だ。1855社から有効回答があったという。

 

 それによると、「2022 年 4 月に値上げした/する予定」は 25.7%、5 月に値上げを行う企業は 11.1%、6 月は 7.6%だった。7月以降も含めれば、2022 年 4 月以降 1 年以内で値上げした/もしくはする予定の企業は 43.2%となった。また、過去半年間ですでに値上げを行った企業および今後 1 年以内で値上げする予定の企業を合わせると 64.7%になった。(下表参照、TDBプレスリリースから)

 

 

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 4月以降に値上げをした/する企業の割合を業種別にみると、「飲食料品・飼料製造」は 73.1%と突出して高く、2021 年ごろから価格の高騰がみられる鋼材などの「鉄鋼・非鉄・鉱業」は 39.1%。「化学品製造」は52.8%、「機械・器具卸売」は49.7%だった。一方で、「運輸・倉庫」「不動産」では他社との競争で受注を失うことにつながる懸念などを理由に値上げが進んでおらず、今後も値上げ予定の企業が限られている傾向が見られたという。特に「運輸・倉庫」では「値上げしたいが、できない」企業は 30.9%と全国(16.4%)を 14.5 ポイント上回っており、価格転嫁が進んでいない状況にあった(下表参照、同)。

 

 

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 では、今回の値上げラッシュを加速させたロシアは果たして日本の経済にどれだけのつながりをもっているのだろうか。TDBの「日本企業の『ロシア貿易』状況調査」によると、ロシアの企業と直接取引を行う日本企業は2022年3月時点で338社あった。さらにこうした企業と取引関係にある企業は1万4949社。この結果、ロシアと直接・間接的に取引関係を持つサプライチェーンは全国で1万5287社にのぼることが分かったという。このうち輸出関連が1万975社、輸入関連が4614社だった。業種別では輸出が中古車、新車、機械部品、電子部品が大きな割合を占め、輸入はエビ・カニなどの水産品、木材、石炭、金属の比率が高い。日本政府などの対ロ制裁はこれらの企業に影響を及ぼし始めており、ロシアとの貿易はリスクと認識されてきているという。

 

 実際にロシアに進出している日本企業は2月24日のロシア軍侵攻開始から事業の継続をどうするのか厳しい判断を迫られた。TDBによればロシアに進出している国内上場企業168社で3月15日までに対応を明らかにした企業37社のうち、ロシア向け輸出・出荷などの取引停止をしたのが22社。次いで生産停止が7社、店舗などの営業停止が4社だった。完全撤退は確認できていないというが、対ロ制裁が強まりこそすれ緩和されることが見込めない先行き不安状態では、ロシアビジネスを停止する企業が増えていくことは避けられない状況だ。

 

 

(IRiniverse 阿部治樹)